装いにまつわる書く者たちのこだわり
書くこと、あるいは表現することはよく脱衣に喩えられる。裸の肖像とか、あらゆるものを脱ぎ捨てて挑んだ新境地とか、自身を丸裸にする筆先とか。その比喩に則って言えば作家たちは脱ぐ者、ということになるのだが、そんな彼らが着ること、装うことについて紡ぐ言葉は、細かいこだわりや気づきに満ちていて実に味わい深い。『作家と猫』『作家と珈琲』など人気のアンソロジーシリーズに新たに加わる本作は、毎日の装いの習慣や雨具や時計など一品への想い、忘れがたいよそいきの思い出まで、作家たちの詩やエッセイ、漫画を46編あつめる。職業が裸になることとも言える者たちでも、着ることへの愛着はふんだんなのだと思わせる言葉が溢れていた。

村上春樹が映画『ドクトル・ジバゴ』の一場面からシャツのアイロンがけに関する自身の習慣について、BGMはジュニア・ウォーカー&オールスターズなどのソウルミュージックが合うなどと記し、「一枚のシャツを十年近く洗って干してアイロンをかけていると(中略)、そこにはそれなりの対話のようなものが生まれてくる」と書く。『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香は、その授賞式で着るために選んだ黒いドレスについて、子どもの頃に書いた少女小説の中のヒーローの装いを思い出しながら「大人になって、特別な日に再び黒を着ようと思ったのは、あのころ紡いでいた物語の中の男の子みたいに、強く、真摯になりたかったからかもしれなかった」と綴る。三島由紀夫があまり使っていないたくさんのネクタイを「後宮の女」に喩えれば、会田誠は自意識過剰の上京学生だったころの自分の珍妙な衣服を「ヤマンバギャル」のメンタリティになぞらえる。
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source : 文藝春秋 2025年3月号