組織の奥深くに巣食う不正や腐敗を現場からの声で外部に届けて是正の契機をつくってくれる内部告発者。そんな立場にならざるを得なくなった人たちを公の利益に資する存在と位置づけ、種々の不利益から守ろうとする「公益通報者保護」制度は2024年、その20年の歴史のなかでかつてないほど大きな注目を集めた。
大組織で60歳まで勤め上げ、最高幹部へとのぼりつめた根っからの公務員が年度末の3月、自分の組織のトップの不正を明らかにする文書をジャーナリストに送る内部告発に踏み切ったものの、当のトップによってそれを把握されてしまい、規律に反したと決めつけられ、不利益に扱われ、自殺を図るところにまで追い詰められた、そんなできごとが兵庫県庁と鹿児島県警で相次いで発覚し、社会に衝撃を与えたのだ。
兵庫県庁では、部長級の幹部職員が3月中旬、「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」と題し、「贈答品の山」「パワーハラスメント」など7項目の疑惑を4ページにわたってつづった文書を作成し、警察、県議会議員、報道機関に匿名で送った。ところが、ルートは定かでないものの、斎藤知事当人が3月20日、この文書を把握。翌日、副知事、総務部長、産業労働部長らを集め、「だれがなぜ作成したのか徹底的に調べてくれ」と指示したのが騒動の発端となった。

副知事らは、疑わしいと目星をつけた複数の県職員の電子メールの送受信記録を過去にさかのぼって調べ、西播磨県民局長だった60歳の男性職員を特定し、3月25日、そのパソコンを押収。文書を送ったと認めさせた。翌々日、局長職を解任した上で、記者会見で知事は「嘘八百含めて文書を作って流す行為は公務員としては失格」と男性職員をこき下ろした。3月末の退職と再就職が決まっていたのにそれをとりやめさせて県職員の地位に留め置き、5月7日、停職3カ月の懲戒処分とした。7月7日、男性職員は「死をもって抗議する」と自殺した。
鹿児島県警では、生活安全部長だった元警視正が定年退職3日後にあたる3月28日ごろ、冒頭に「闇をあばいてください」と太字で記した文書を札幌市のジャーナリストに匿名で郵送した。枕崎警察署員の女性トイレ盗撮容疑について、なされるべき捜査がなされていないことなど、県警内部の不祥事を示す警察内部資料を同封した。これを受け取ったジャーナリストは、寄稿先でもある福岡市のニュースサイト「ハンター」と電子ファイルの形で共有した。その5日後にあたる4月8日、別件を捜査中の鹿児島県警がハンターの事務所を捜索してパソコンを押収し、その中にこのファイルがあった。
これがきっかけとなったのだろう、5月上旬、県警本部は遅ればせながら枕崎署員に対する捜査を始め、同月13日に同署員を逮捕した。さらに、あろうことか、「警察情報が印字された書面」を第三者に郵送したのは、職務上知り得た秘密を洩らしたものであるとして、5月31日、60歳の前生活安全部長を国家公務員法違反の疑いで逮捕した。
逮捕された前部長は6月5日、勾留理由開示の手続きがおこなわれた鹿児島簡裁の法廷で「私がこのような行動をしたのは、鹿児島県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことがあり、そのことが、いち警察官としてどうしても許せなかったからです」と県警本部長を指弾した。前部長は、逮捕に先立って自宅を家宅捜索された際に自殺を図って病院に搬送された、と報じられている。
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