「オンラインカジノ」――この言葉を日本人が意識したのは、2022年4月に起きた山口県阿武町のコロナ給付金誤送金問題からだったと思う。そしてその2年後、今度は米国大リーグのスーパースターである大谷翔平選手の個人口座から元通訳が23億円もの金をだましとり、それをオンラインカジノの一種であるスポーツベットに使うという事件が起こり大問題となった。
両事件とも当会にも取材が殺到し「ギャンブル依存症」についてコメントを求められたが、結局は、「ギャンブル依存症は個人の問題である」と自己責任論が噴出し、我が国では抜本的な対策に殆ど着手されなかった。
両事件は「オンラインカジノ」という目新しさと、金額の大きさから大騒ぎとなったが、実は同様の事件はすでに日本のあちこちで起きている。数万円から数億円までギャンブルが原因の窃盗、横領、詐欺事件は殆ど毎日のようにニュースになっている。

ではなぜ依存症対策が進まないのか? それは依存症問題には依存症の原因となる産業があり、消費者問題だからである。依存症者を作り出してしまう、アルコール、処方薬・市販薬、ギャンブル、ゲームといった、これらの産業振興というアクセルと、依存症対策というブレーキが、同じ企業内、同じ管轄省庁で行われていることに我が国の構造的な問題がある。我々依存症団体の訴えから、2017年より厚生労働省に「依存症対策推進室」が設置されたが、依存症対策予算はアルコール、薬物、ギャンブル、ゲームを合わせておよそ9億円前後とごくわずかで、ギャンブルだけでも競馬・競艇・競輪・オートレースといった公営競技とパチンコを合わせればおよそ20兆円にものぼる売り上げに対し、とてもじゃないが対策は追いついていないというのが現状である。
売り上げは1兆円
さらにギャンブル依存症対策を難しくさせたのが、オンライン化である。コロナ禍には、突然ヒマになり、友人知人との繋がりが分断され、社会不安が蔓延するという依存症になりやすい要因が揃っていた。そしてこの苦しい状況下でも、スマホさえあれば没頭できたために、オンラインギャンブルが一気に広まってしまった。コロナ禍で公営競技だけは売り上げを飛躍的に伸ばし、特に競艇は過去最高収益となった。これに気を良くした公営競技とアプリの委託会社は様々なサービスを打ち出し、「登録すれば新規ポイントプレゼント」「友達紹介キャンペーン」などと、どんどんハードルを下げ若者をギャンブルに誘導していった。
そしてこのコロナ禍の巣ごもり需要で台頭してきたのが「オンラインカジノ」である。日本では違法であるにも関わらず、対策が放置されていたために地上波テレビでCMまで流されていた。また、アフィリエーターやYouTuberは、自分たちのサイトから登録したユーザーが使ったお金の数%がキックバックされるという仕組みで大金を得た。のちに逮捕されたYouTuberは、「報奨金は半年間で2億~3億円だった」と証言している。こうして大金につられたアフィリエーターやYouTuberが多数現われ「日本ではグレーゾーン」「合法でも違法でもない」というデマを蔓延させてしまった。
テレビCMでは一流スポーツ選手が登場、有名YouTuberはアンバサダーに就任、このような広告無法地帯にあり、違法とも思わず、気軽に手を出してしまう人が続出した。2023年度の日本の違法オンラインカジノの売り上げは約1兆円と言われている。
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