8月22日、横浜に激震が走った。カジノを含むIR（統合型リゾート）について、これまで「白紙」としてきた林文子横浜市長が一転して誘致を表明したのだ。

　これに猛然と反発したのが藤木企業の藤木幸夫会長（89）だ。父親の代から横浜港の荷役業を差配し、菅義偉官房長官や二階俊博自民党幹事長と袂（たもと）を連ねてきた「ハマのドン」である。政権と真っ向から対立しようとする藤木氏の真意はいったいどこにあるのか。（取材・構成　森功）

藤木氏が痛感した「カジノの弊害」とは

　もともと藤木幸夫はカジノに賛成だったのに、いつの間にかひっくり返った。なぜか――。

　横浜のカジノ反対を表明してから、たびたびそう問われるようになりました。だからまずは、そこから話さなければなりません。

　たしかに、カジノ構想の話が出始めた頃は、青い目の人ではなく、日本人がやるなら結構、と賛成でした。パチスロメーカー「セガサミーホールディングス」の里見治会長も、「一度話を聞いてください」とやりたがっていました。セガサミーで硬式野球部を持っている里見さんは、野球好きな（横浜スタジアム会長の）私との交流もあり、よく知っている。また地元の京浜急行なども、プロジェクトチームをつくり、熱心にカジノを研究してきました。もちろん、それはそれでいい。

　しかし、私自身はカジノを知るにつけ、「そんなことがあるのかよ」と、その弊害を痛感するようになりました。世界一の金持ちが瞬時に一文無しになる。10レースほどある競馬は、負けるにしても楽しむ時間があるが、カジノは「秒殺」され、家に帰れなくなってホームレスになる。ラスベガスでは、かつての青年実業家が白髪頭になって集団生活しています。

ギャンブル依存症の悲惨さ

　そしてなによりカジノで怖いのは、ギャンブル依存症です。それを確信したのは、元自民党参議院議員の斎藤文夫さんからの話でした。「一度、さまざまな犯罪研究をしている日本社会病理学会の横山実会長の話を聴いてみてはどうですか」と紹介してもらったのです。

　それが2018年3月のこと。私一人で横山さんの話を聴いても仕方ないので、横浜港運協会の役員にも声をかけ、ロイヤルホールヨコハマに70人ほど集めました。そこには、国会や神奈川県議会、横浜市議会の議員たちも案内しました。ギャンブル依存症に対する関心はとても高く、議員とマスコミ関係者を含めおよそ600人が集まりました。

　公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子会長にも講演してもらいました。これがショックな話で、旦那さんが競艇に狂い、それにつられて自らもマカオのカジノにはまって破滅した。「だから金輪際ギャンブルに手を出さない」と体験談を語られていましたが、現実にはいったんギャンブル依存症になると、なかなか立ち直れない。

1. TOP
2. ニュース
3. 菅官房長官、カジノは筋悪だよ