出生率のデータが公表されると、東京都はきまって全国で最下位となる。にもかかわらず、毎年多くの若者が東京にやってくる。出生率が低い地域に人が集まれば、少子化と人口減少がますます進む。多くの若者を集めておきながら、次の世代を担う子どもを産み育てる環境にない東京は「ブラックホール」である。
これが「東京ブラックホール論」、すなわち東京一極集中が少子化をもたらしているという議論の基本的なストーリーだ。2024年4月には、人口戦略会議(議長=三村明夫・日本製鉄名誉会長)から公表されたレポートの中で、東京都の16の区を含む25の自治体が「ブラックホール型自治体」とされ、新聞やテレビで大きな話題となった。元をたどると、この議論のきっかけとなったのは、10年前に日本創成会議(座長=増田寛也・元総務相)から公表された報告書(いわゆる「増田レポート」)である。

東京の出生率が低いことも進学や就職で多くの若者が東京にやってくることも、実際のデータから確認できる事実だから、この話は非の打ちどころがないように見える。だが、ここで留意が必要なのは、出生率は人口移動の「結果」として決まる指標でもあるということだ。「出生率が低い東京に若者が集まる」という話には、「東京に若者が集まるから、データとして観測される出生率が低くなる」という面もある。このことをきちんと認識しておかないと、思わぬ判断ミスをすることになりかねない。
ここまで「出生率」と書いてきたのは、合計特殊出生率と呼ばれる指標のことだ。「特殊」とあると、あまり馴染みのないもののように思われるかもしれないが、最もよく目にする出生率の指標である。2024年6月には東京都の2023年の出生率がついに1を下回ったことが報じられ、「0.99ショック」は大きな衝撃をもって受けとめられた。
ここで合計特殊出生率について改めて確認をしておくと、これは15~49歳の女性を対象に、各年齢層の女性が産んだ子どもの数とその年齢層の女性の数から年齢層ごとの出生率を求め、それを足し上げて算出される出生率の指標である。この出生率を計算する際の「分母」、すなわち女性人口には未婚の女性も含まれる。そして、このことが地域別の出生率に歪みをもたらす原因となる。

このことを確認するために、合計特殊出生率を20代まで(15~29歳)と30代以上(30~49歳)の出生率に分けてみると、30代以上については東京都の出生率が全国と同率となる(0.83)。一方、20代までについては全国が0.50であるのに対し、東京都は0.28となる(厚生労働省「平成30年~令和4年人口動態保健所・市区町村別統計」をもとに算出)。
ここからわかるのは、全国と東京の出生率の差は20代の女性の出生率の差によるものであるということだ(10代後半の女性の出生率はとても低く、出生率全体への寄与は小さいことに留意)。その背景には20代の女性の未婚率の高さの違いがある。20代前半については全国で見ても未婚率が90%を超えているから、進学や就職でこの年齢層の女性が数多く流入する地域では自ずと未婚率が高くなり、出生率は低めに出る。
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