日本の翻訳文学業界は2000年代から下降状況にある。これは、マイナーな言語にある程度共通した現象で、言語がマイナーであるほど、原書で読めるものは原書で読むというのが一般的傾向だ。
ところが、日本はマイナー言語圏でありながら、外国語の習得率は高くない。それだけ翻訳技術に頼ってきた面があるのだが、文学に関しては翻訳ものへの関心がどんどん薄れているのだ。若い層ほど翻訳書離れが顕著になっている(ちなみに最メジャー言語の英語圏イギリス、アメリカは逆で、近年若い層ほど翻訳文学を買って読む現象が起きている)。
2024年、そんな翻訳文学界にうれしい驚きの旋風を巻き起こしたのが、南米コロンビアの作家でありノーベル文学賞受賞者ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』(鼓直訳)の新潮文庫版である。

世界で5000万部売れたという本作は、日本ではウンベルト・エーコ『薔薇の名前』と並んで文庫化されない名作の一つだった。「文庫化されたら世界が滅びる」というジョークもあったほどだ。それが、作家の没後10年を機に新潮社がついに文庫を発売。それ以来、29万部を売りあげているという(2024年9月時点)。
外国の純文学が何十万部以上の規模で売れたのは、コロナ禍で再注目されたカミュの『ペスト』を除けば、2000年代のサリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(村上春樹訳)や、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(亀山郁夫訳)以来ではないだろうか。
なぜこんなに売れるのか? 小説としての革新性やクオリティはもちろんだが、それ以外にはどんな要因があるのか? 以下、「世界的なラテンアメリカブーム再来」「カバーの魅力」「読みの熟成」といった点から考えてみたい。
ベストセラーの3つの要因
まずは、ラテンアメリカ文学ブームについて。これは世界的な動向だ。1960年代から70年代、ガルシア=マルケス、コルタサル、サバトらがリードするブームがあったが、それがいま姿を変えた形で再来しているのだ。ここ何年かのブッカー賞などの主要な国際文学賞を見わたしても、ラテンアメリカのスペイン語作家の候補入りや受賞が目につく。また、『百年の孤独』はネットフリックスでドラマ化も進んでいる。
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