「自由貿易は善、保護主義は悪」という第二次世界大戦後の常識をトランプ米大統領が覆そうとしている。4月2日、トランプ氏は、「相互関税」を導入すると発表した。まず全ての国・地域に追加で一律10%の関税を導入した上で、貿易赤字などの状況を踏まえ、国・地域別に上乗せすることになる。日本は計24%を課されることになった。
トランプ氏の目的は、関税政策を用いた米国の産業構造の転換だ。これは米国製品の輸入増加のような弥縫策では実現できない。トランプ氏は、米国で自動車、洗濯機、冷蔵庫などの家電製品、衣服などの繊維製品も生産できるような産業構造の転換を考えている可能性がある。だとすれば、日本企業も米国に工場を移転するなどの対応が迫られる。
モノづくりのための技師や熟練工がもはやおらず、米国の第二次産業の復興をトランプ氏が主観的に望んでも客観的には不可能なので、若干のジグザグはあっても、最終的に米国は自由貿易主義に戻らざるを得なくなるというのが、大多数のエコノミストの見方だ。
もっともトランプ氏がエコノミストや経済記者が考える経済合理性と別の位相で国家戦略を考えている可能性がある。その契機はロシア・ウクライナ戦争だ。この戦争で西側連合から制裁を科されたロシアは、それを逆手にとって、アウタルキー(閉鎖経済)の構築に成功した。ロシア・ウクライナ戦争だけでなく経済においても米国がロシアの政策を踏襲し始めているように評者には見える。
トランプ関税は、エリート経済学者から厳しく批判されている。
〈ノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者ポール・クルーグマン氏は(4月)2日、自らが配信するニュースレターで、トランプ米大統領が発表した相互関税を「完全に狂っている」と猛批判した。トランプ氏の関税引き上げに関する矛盾点も指摘し「イエスマン」で固められた第二次トランプ政権の危うさに警鐘を鳴らしている〉(「毎日新聞電子版」4月3日)
リストの関税論
クルーグマン氏のような「完全に狂っている」というレッテル貼りでは問題の本質をとらえ損ねる。評者はトランプ氏には明確な戦略があると見ている。それは、ドイツ歴史学派の経済学者フリードリッヒ・リスト(1789〜1846)が『経済学の国民的体系』(1841年)で展開した、政治主導で保護貿易を行い、自国の産業を発展させるという思想だ。そこでは政治によって経済の統制が可能であるという前提に立つ。
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