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中華オタク腐女子の深すぎる世界「新撰組BLはOKだけど三国志はダメ」

2019/07/23

 中国で日本のオタク文化は人気がある……ことは、すでに10年以上前から指摘されてきた。いまやオタク世界での日中の融合が進み、アニメの「聖地巡礼」の場で中国人観光客を見ることも、コミケで中国人に出会うことも、逆に中国語がまったくできない日本人が中国人コスプレイヤーのファンになることもまったく珍しくなくなった。

 そんな昨今の風潮を反映して、日本在住の中国人女性「はちこ」氏が今年6月27日に刊行したのが『中華オタク用語辞典』である。もとは彼女が2017年からコミケで頒布していた冊子を商業向けに再編集したもので、「萌え豚」「塩対応」「顔面偏差値」「脳内補完」といった、現代中国のオタク言葉やネットスラングが満載の楽しい本だ(これらの単語を実際に中国語でどう言うかは書籍で確認してみてほしい)。

『中華オタク用語辞典』を出版したはちこさん

 しかし、私が同書でもっとも注目した単語は「腐女 fŭ nǚ(=腐女子)」だった。なぜなら解説パートにこんなことが書いてあったからだ。

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 男性同士の恋愛を好む女性、いわゆる今日の「腐女」は最初からその呼び方ではなかった。以下は筆者の個人的体験に基づく。2000年以前から「腐女」という言葉は存在していたが、2000年代前半までは「同人女(tóng rén nǚ)」という言葉が現在の「腐女」と同じ意味で使われ……(以下略) 〔『中華オタク用語辞典』p15、太赤字は筆者〕

 中国オタク用語の専門辞典もほぼ前例がないが、腐女子を明確に自認する中国人女性が日本語の媒体に登場したのも、おそらく初めてだろう。そもそも筆者を含めた一般男性にとって、腐女子やBL(ボーイズラブ)関連の文化はなんとなく概念は知っていても実態がよくわからない存在である。いわんや中国における腐女子ともなれば、まったくお手上げだ。

 そこで今回は、はちこ氏に中国の秘められた腐女子の世界を存分に語ってもらうことにした。

中国、腐女子の歴史はいつから始まった?

――中国では1990年代から、海賊版などを通じて日本のサブカルチャーが大量に流入しました。Jポップやドラマ、ファミコン、『ドラゴンボール』のような有名マンガの受容が有名ですが、これに対する「裏」の現象としてAV(アダルトビデオ)やエロゲなども相当に広がります。腐女子文化もこうしたなかで普及していったのではないかと思うのですが。

はちこ 1990年代の動きは世代的にわからない部分もありますが、おおむねそうだと思います。中国で1990年代前半にブームだった、CLAMPの『東京BABYLON』『X』『聖伝-RG VEDA-』あたりがはじまりでしょうね。これらの作品はBLっぽい雰囲気を匂わせる程度でしたが、中国の読者がそれを感じはじめたきっかけになったと思います。