文春オンライン

中華オタク腐女子の深すぎる世界「新撰組BLはOKだけど三国志はダメ」

2019/07/23
note

――なるほど。

はちこ 結果、1999年ごろからは中国国内で『耽美季節』『阿多尼斯(アドニス)』などのBL雑誌が誕生します。A4サイズで、めちゃくちゃ分厚い雑誌でした(笑)。内容は日本のBL小説やBLマンガの翻訳です。

 いまから考えると、著作権的な面では非常に危ういのですが、ともかくBL文化が中国国内で明確に意識されはじめたのはこの時期からです。当時は『絶愛』『間の楔』『富士見二丁目交響楽団』『炎の蜃気楼』あたりのBL小説が読まれていました。その後、2005年ごろまでは『JUNE』系の耽美的な作品が多く受容されていましたね。

ADVERTISEMENT

中国のBL雑誌の草分け『阿多尼斯』2008年8月号。中国の出版産業の衰退もあり2011年に停刊した。出版元は『耽美季節』と同じだったようだ

――耽美というと、男子には『パタリロ!』くらいしかイメージが湧かない世界ではありますが……。そういえば中国語でも「耽美 dān mĕi」という単語がありますね。

はちこ はい。BL的な表現は、中国語ではもともと「耽美」と呼ばれていました。ただ、耽美は美意識が高くて世界観の設定もでかい。いっぽうで「BL」は、もっと甘くてフワフワしているイメージです。アニメやマンガを原作にした二次創作を作るうえでは、BL的な表現のほうが作りやすいですね。

 ここからは個人的な経験になりますが、2000年代に中国ではネット掲示板がブームになって、そこに小説を投稿する人が増えはじめます。小説のなかには二次創作も多かったですから、徐々に「耽美」よりも「BL」的な表現が増えていくことになりました。小説の一次創作も生まれはじめます。

中国腐女子のライフスタイルマガジンだった『801彼女』2010年3月号。こちらも現在は停刊しているとみられる

スパイダーマンは「総受け」

――なるほど。ついに2000年代後半からは中国独自の腐女子コンテンツが生まれはじめた。

はちこ そうです。2010年代からは二次創作の題材も拡大して、日本のコンテンツ以外の二次も増えていきます。たとえば欧米系とか。最近は中国系のものも人気です。

――欧米系ってどういうものですか?

はちこ アメコミやドラマを原作にしたものですね。『アベンジャーズ』のキャプテン・アメリカ×アイアンマンとか、スパイダーマンは「総受け」とか。BBCが放送していたドラマの『SHERLOCK/シャーロック』も題材として好まれます。

 あと、中国系だとヒット小説の『盗墓筆記』『全職高手(マスターオブスキル)』もよく題材になります。ほかには人気ドラマの『琅琊榜』『七侠五義』『偽装者』も人気ですね。

二次創作の題材になるという『SHERLOCK/シャーロック』