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連載昭和の35大事件

共産党1600人の大検挙「三・一五事件」で浮き彫りになった“政府の言論弾圧”

政府による「記事の差し止め」が許された時代

2019/12/15

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ライフ, 歴史, 社会, メディア

関心が高かった五色温泉での秘密会合

 やはり、五色温泉の秘密会合には関心が高かった。「人目を欺く無礼講の宴 社長の慰安会と触れ込んで 各自様々に変装して乗込む」(東京朝日)、「廊下には見張りを置き 密議の後には酒宴 蓄電池会社員と称する十七名 雪の五色の結党式」(東京日日)、「俄か社長に某氏が 吹雪の五色で一狂言 漏れるを恐れた周到さ」(国民新聞)……。

 1つ不可解なのはその日10日付の読売朝刊だ。2面トップに「某重大事件の顛末 けふ政府から公表」の見出しの記事が。具体的な内容は書いていないが、「記事差し止め」はどうなったのだろうか。正力松太郎社長が警察官僚OBだったことと何か関係があるのか。ちなみに正力社長は同じ1928年8月に、「昭和の35大事件」で取り上げた「東京都大疑獄事件」のうち「京成電鉄事件」で検挙され、その後、贈賄幇助罪で執行猶予付き判決を受けている。

正力松太郎氏 ©文藝春秋

社説を見てみると……

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 注目は社説だが、これも大筋では横並び。荒っぽくまとめれば、「事実関係がよく分からない」のを前提に、「共産党は認められないが、こうした事態を招いたのは政府や社会にも責任がある」ということになりそうだ。「(政府側の発表が)大体において誤りなきものとすれば、われらは共産党の掲ぐるところのプログラムならびに、これを遂行せんとする手段方法に対して、絶対否認を表明するものである」(東京日日「共産党事件」)と主張。一方で「なにゆえにかくのごとき陰謀が現代に企てられたかについては、社会全体として、畏(おそ)れ、かつ考うるところがなくてはならぬ」「反省すべきは今日の社会、ことにいまの為政者ではないか」(東京朝日「共産党事件の検挙」)と述べる流れがほぼ共通している。

弾圧の結果、河上肇・京大教授も辞職に追い込まれた(東京日日新聞)