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パチンコ屋はちゃんとしたらダメ!「ザル」だからこそ儲かる摩訶不思議な世界

「たいして勝てません」となぜ言えない?――『パチンコ滅亡論』(扶桑社)より #2

note

大崎 ただ面倒なのは、客もお金があったらやっぱり4円のフルスペックを打ちたい気持ちも本音としてあるところ。だから業界としてはこの状況を見て、ああ打ち手はギャンブル性の高いのは望んでないから、もっと遊べる台を出そうとはならない。今や少数派であるギャンブル好き、4円プレイヤーを相手に、儲かるうちは続けるだけ続けて、行き詰まったら変えればいいってメンタルが捨てきれていない。いかにギリギリを突くかっていまだにやってる(*30)わけ。

*30 ギリギリを突くかっていまだにやってる
射倖性(ギャンブル性)の高さを追い求め、いき過ぎたら規制される、ほとぼりが冷めたらまた射倖性を高めて……という流れを繰り返してきたのがこの業界。ただし、射倖性の高さをお客も支持するわけなので、一概に業界側だけが悪いとも言えない

ヤング ただ、企業としてどうしたら前年より成長できるかを追求した結果という見方もできるんじゃないかと。単純に昨対プラスを考えたとき、射幸性を上げることが一番効率的なわけじゃない。これの積み重ねが現状を招いた気もするんだよね。パチンコ台を作ってる町工場が「企業」になってしまった弊害というか。

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「ザル」なうちは儲かって「ちゃんとする」と儲からなくなる

大崎 これは主にホールの話なんだけど、パチンコ屋が急成長したひとつの要因として、会計とか利益管理がザルだったっていうのは絶対にあると思う。

ヤング それ、要するに「脱税」ってことでしょ。それもさっきの遵法精神の欠落みたいなところで、なんで税金払わないけんの?っていうメンタルだったんじゃないかな。しかも日銭商売だから、売り上げのちょろまかしなんてやりたい放題だし。

大崎 売り上げは全て現金だから、とりあえず一日の営業が終了して、金庫にこれだけ金が増えてたらオッケーみたいなね。

ヤング で、こんだけしか売り上げなかったことにしよーっていうのも自由自在だから。それこそ『マルサの女』の伊東四朗(*31)みたいになるわけじゃない。

*31 『マルサの女』の伊東四朗
87年公開の日本映画で監督と脚本は伊丹十三。マルサ(国税局査察部)に勤務する女性査察官と、脱税者との戦いをコミカルかつシニカルに描いたドラマ。映画の冒頭で主人公の板倉(宮本信子)が両替機に印の付けた1万円札を投入し、翌日パチンコ屋の社長(伊東四朗)が目印の付いた1万円札を持っていたことから売上金の着服を暴くシーンは有名

大崎 警察主導で進めたCR機の導入は、売り上げの可視化が目的だからね。ギャンブル化を促進する弊害よりもそっちのが大きな問題だったってこと。

ヤング ただ、プリペイドカードの不正利用(*32)が爆発的に増えたことは誤算だったろうけどね(笑)。

*32 プリペイドカードの不正利用
現在では直接コインサンドに現金を投入してプレイするのが普通だが、初期のCR機はまずプリペイドカードを購入しそのカードをコインサンドに投入してプレイしていた。テレホンカードと同様に多くの偽造プリペイドカードが作られホールで不正利用された。また、この不正利用で損をするのはプリペイドカード会社であってパチンコ屋は損をしないシステムになっていたのも被害が広がった原因とされる

数多くのパチンコ攻略雑誌が創刊された ©iStock.com

大崎 あと、普段の営業にしても、トータルで儲かってれば細かいとこは気にしないみたいな店ばかりだったから、打ち手側からするとつけ入る隙が多数あって、それがゆえに攻略メディア=パチンコ雑誌っていうものが誕生した。釘をちゃんと読んで、回転率(*33)を把握したらすごい儲かる、いわゆる日当の高い台がゴロゴロしてる状況だったから、そうなると当然のことながら専業(*34)にするプロも増え……。パチンコ屋が雑だったからこそ、勝ち方をわかってる打ち手はおこぼれを頂戴できた。でもだんだん利益管理が細かくなって、今では玉一発打って何銭儲かる、みたいな細かな積み重ねが商売のベースになってしまったから、店が意識的に勝てる台を作らない限り、客が勝つのは難しくなったよね。

*33 回転率
千円あたりの回転数の平均値
*34 専業
プロと同義語。パチプロやスロプロの中には「ただこれで食ってるだけで、俺は何かのプロフェッショナルではない」という考え方をする人間もいて、そういうタイプの人間は自分達のことをプロとは言わずに、「専業」とか「スロプー」などと言う