元慰安婦たちは運動家に“操縦”されていたのです――。そう語るのは、日韓でベストセラーとなった『反日種族主義』の共著者で、韓国近現代史が専門の研究者、朱益鍾(チュ・イクチョン)氏だ。

 韓国社会を揺るがしている、元慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)の寄付金などをめぐる一連の不正疑惑。5月29日には、正義連前理事長の尹美香(ユン・ミヒャン)氏が会見で疑惑を全面的に否定したが、検察の捜査は続いている。

疑惑について会見する「正義連」前理事長の尹美香氏(5月29日) ©AFLO

 韓国で不可侵の“聖域”とまで言われた元慰安婦支援団体で何が起きているのか。同書で挺対協についてのパートを執筆した朱氏に聞いた。

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「日本からお金をもらったら公娼と同じだ」

――今回の正義連をめぐる騒動をどう見ていますか?

 正義連とその前身の「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)の本当の姿が、人々に伝わる重要な局面だと思います。数々の疑惑から、韓国国民が「正義連は本当に元慰安婦の名誉を回復し、傷を癒すことが目的の団体なのか」と疑問を抱く機会になりました。それまで韓国では、彼女たちに疑問を持つ機会すらありませんでしたから。

――一連の疑惑は、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏の告発から始まりました。元慰安婦たちと正義連は一心同体ではなかったのでしょうか?

 1990年11月に挺対協が設立された時点では、元慰安婦のハルモニ(おばあさん)たちと、女性活動家たちの関心事は一致していたように外部からは見えました。

インタビューに答える朱益鍾氏 ©文藝春秋

 とはいえ、両者の背景は大きく異なっていました。挺対協に集まった支援者は、社会学者や女性活動家などのエリートで、名門の梨花女子大出身者が主導していた。高齢のハルモニたちの意見より、活発なエリート運動家たちの要求が優先されるようになっていったのは当然の成り行きでしょう。

 会社に例えるなら、元慰安婦が「株主」で、女性運動家は雇われた「経営者」。本当の会社なら株主総会で株主が経営者を選ぶ機会がありますが、挺対協にはそんな機会はない。そうなると、経営者は株主の利益を追求しなくなっていきますよね。いつの間にか運動家が、元慰安婦を率いていく形に逆転してしまったのです。