PCR検査の積極的推進に不可欠な、無症状者や軽症者のための療養施設の確保についても、東京都の杜撰な対応が報じられている。
国全体の基本戦略が明確になっていないことを背景に、「Go To トラベル」キャンぺーンについては、国と都との間の不協和音が伝わってくる。 今こそ、PCR検査の徹底的な拡大が、感染予防と経済再生を両立させるための国の貴重な「社会インフラ」であることを認識すべきである。
感染制御・社会経済活動を維持するための検査へ
他国がやっている事が全て正しいと考えるべきではないが、検査拡大に本格的に舵を切らない我が国の対応は、世界の専門家の方々からも不思議がられているのが現状である。「PCR検査の徹底的な拡大」の必要性については、マスコミ・識者の間でも理解が深まりかなり定着してきたと考えられるが、残念ながら、依然として反対の声がある。
当初は、スタッフ、試薬の不足、収容施設の不足等「検査を拡大したくてもできないハードルがある」との指摘が多かったが、こうした課題が順次解消されていく中で「検査は(拡大できたとしても)拡大すべきではない」という指摘も少なくない。
こうした議論については、当然のことであるが、事実に基づき、科学的な議論により方向性を定めていくことが重要だ。こうした観点から、最近、日本医師会COVID-19有識者会議の一環としてとりまとめられた、「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用推進タスクフォース 中間報告書解説版」の内容は注目に値する。
本レポートには筆者も参加したが、医師会や医学会、検査関係者、臨床医、公衆衛生関係者らが多面的かつ科学的な検討を繰り返したうえでの成果であり、新型コロナに関わる関係者全てが読むべき内容と考えられる。今までの検査する・しないという世論を真っ二つにするような議論に対して、事実に基づき、非常に明快な指針を与えている。
特に、検査は、その目的と意義を理解したうえで、適切に利用することが重要であると指摘している。以下、ポイントを抜粋しよう。
「PCR検査の利用目的と意義は以下の4通りがある。
1. 患者の診断(個々の患者の治療方針等を決めるための病状の把握)
2. 公衆衛生上の感染制御(他の方にうつす前に隔離するための感染者の発見)
3. ヘルスケアによる社会経済活動の維持
4. 政策立案のための基礎情報」
このうち、筆者が検査の拡大が必要と考えるのは、1の目的よりも、主に2と3の感染制御および社会経済活動の維持を目的とするものである。
さらに、PCR検査の利用は、対象とする者やグループについては、事前確率(どの程度感染が広まっていると推測されるか)、集団リスク(感染が急速に拡がるリスク、感染拡大が公共機能等に与える影響のリスク)、経済的影響(感染拡大が経済に与える影響)の3つの観点から考えることが必要だ。