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唾液やのどの粘膜にウイルスがいるかどうかが重要

 また、感度(陽性の人を陽性と判定できる確率)に関しても、臨床診断上は70%程度であり、残りの30%の間違って陰性と判定された感染者の方が動きまわってしまい、感染を広げるのではないかという懸念を持つ人が多い。

 しかし、いま戦略的にPCR検査を拡大しようとするのは、感染者が他の人に感染させることができる「感染力」があるかどうかを確認し、感染者を隔離することが目的だ。しかも主な対象は無症状感染者であり、咳やくしゃみなどの症状がなくても、唾液やのどの粘膜にウイルスがいたら、会話をしたり歌ったりしたときに他の人に移してしまう。

※写真はイメージ ©iStock.com

 感染防止を目的とした場合には、唾液やのどの粘膜にウイルスがいるかどうかが重要で、コロナに感染しているのにウイルスが見つからず、臨床診断的に「偽陰性」になったとしても、実は大きな問題ではない。PCR検査を行えば唾液やのどの粘液の「感染性」を直接みることができるので、感染制御を前提とした場合には「偽陰性」という概念は消え去る。

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 つまり、感染制御や社会経済活動の維持のためのPCR検査には、感度や特異度に基づく議論は基本的にはあてはまらないし、そもそも、PCR検査は他の多くの検査に比べても優れた検査であることを忘れて議論されてしまっている。

 また検査精度については、外部制度管理の実施や検査機関の評価・認定基盤の充実とともに、検査を繰り返すことにより実質上の精度を大幅に引き上げることも可能であり、いかに多くの人が、簡単に検査を活用できるかどうかに、新型コロナの感染コントロールはかかっている。

 最近では、非常に価格が安く、短時間で検査結果の出るPCR検査も開発されはじめている。いずれ、リトマス試験紙のような検査キットで、毎日検査をしてから出勤するようになるかもしれない。

 検査数が相当な水準まで増加し、その時々の検査対象の絞り方等に影響を受けにくい「定点観測的データ」が検査を受けた方々の様々な属性情報とともに公表される枠組みができてくれば、どのようなエリアでどのような方々に感染が拡大しているのかを正確に把握することが可能となる。

※写真はイメージ ©iStock.com

 こうした大規模な検査インフラができあがれば、国民が感染者数の動向をどう解釈するかに翻弄されることなく、また、万が一休業・自粛要請が必要な局面となっても、最低限のセクター、エリア、期間等に限定して、経済への打撃を最小化した「スマート」な自粛要請等も可能となる。

 臨床診断目的の論理を感染制御や社会経済活動の維持という目的に当てはめて、検査を抑制する日本独自の考えはもう脱却し、検査と隔離を本格的に基本戦略に据えるべき時だ。そうでなければ、この秋以降の世界的第二波に対応できない。