1945年(昭和20年)8月15日の敗戦に際し、日本が朝鮮半島に残した資産はいかほどであったか。韓国の著名な経済学者の研究結果である『帰属財産研究』(李大根著、2015年刊)によると、当時の推計で52億ドルだという。現在の価値では約10兆円にもなる規模だ。

 同研究によると、この資産のほとんどは日本人の投資、開発によって形成され、これは35年間の日本統治時代および解放後の経済発展に寄与し、韓国社会を豊かにしたという。

 歴史的経緯でいえば日本資産は韓国ではまず進駐米軍が接収し、後に韓国側に譲渡され「敵産」といわれた。したがって財閥をはじめ現在の韓国企業には、この「敵産」をルーツとするところが結構ある。

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恩を仇で返されたようなもの

「文藝春秋」9月号で著者の李大根・成均館大名誉教授(81)をインタビューしたが、話題は当然、日韓の外交懸案である、いわゆる徴用工補償問題におよんだ。

 李教授は「1965年の国交正常化の際の請求権協定で解決済み」という見解だが、とくに日本が残した膨大な資産のことを考えれば「今さら日本に補償を要求するというのは筋が通らないのでは……」という点で、筆者と共感しあった。

李大根・成均館大名誉教授

 今回の徴用工訴訟では日本製鉄が矢面に立たされている。日本製鉄が韓国のPOSCO(旧浦項総合製鉄)に持っている株の差し押さえが問題になっているのだが、日本製鉄からすれば「恩を仇で返されたようなもの」だろう。

 日本製鉄は朝鮮半島に資産を残しているし、POSCOは国交正常化後に日本から得た「請求権資金」と日本製鉄などの技術協力で誕生した企業だからだ。