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「核分裂反応です。ここテストに出ます」 東電関係者が1F爆発直後に放った“ブラックジョーク”とは

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#9

2020/11/01

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

note

冒頭から超弩級のブラックジョーク

 1Fが放射性物質をまき散らした現況からすれば、冒頭から超弩級のブラックジョークだった。楽しく観ていたら、映像はたったこれだけで終わってしまった。

 講師が言う。

「いまビデオの中でですね、原子力発電が全体の3分の1近く占めるとありましたが、いま停まっている状況が多いので、まぁ、このへんは……ということになっています」

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 講師もやりにくかったのだろう、最後は口ごもってごまかした。

「では、本題に入りまして、5ページですね」

 ウラン235が1グラムで、石油2000リットル、石炭3トンに匹敵するということから、教育が始まる。

〈こんな初歩からやるのか……〉

 付け焼き刃とはいえ、あれこれ情報収集をして、その程度の知識はあった。経験者にしか分からないだろうが、全体的に運転免許の講習と雰囲気が似ている。

 面白いのはポイントごとに、講師が「ここは試験に出ます!」と教えてくれたことだ。

「原子力発電の燃料……これは核分裂反応による熱で水蒸気を発生させ、タービンを回します。核分裂反応です。ここ大事です。テストに出ます!」

(写真:著者提供)

 とにかく親切で、テキストもよくできており、わかりやすい。市販すれば売れるだろう。かなりの部数がはけるはずだ。

現実とかけ離れた講義

 時間が経つに連れ、私語が目立つようになってきた。遅刻してきた隣の作業員にも4人の仲間がいて、前後に座った同僚に向かい、「おい、飯どうする」とか、「お前、テストに落ちたら恥ずかしいぞ」などささやいていた。時折教育とは無関係の部分で笑い声が聞こえたりする。真剣な顔で、一字一句聞き逃さないよう必死にメモを取っていたのは私だけだ。

 不埒な作業員である私にとっては教育と同時に取材なわけで、他の作業員にとっては退屈だったろう。なにしろa・b教育は平時の作業員のために行われている。

「法令ではですね。実効線量限度は5年間で100ミリシーベルト、年間で50ミリシーベルトと定められています」

 と説明されても、1Fはその定義に当てはまらない。そのたび、講師も困った顔になっていた。

「まぁですね。第二原発に行かれる方はともかく、第一原発ではご存じのような状態で……」

 説明のたび、語尾が尻切れトンボになるが講師を責めるのは酷だ。突っ込まれれば言葉がない。現実とかけ離れた講義は、説明している側の方がつらい。