冒頭から超弩級のブラックジョーク
1Fが放射性物質をまき散らした現況からすれば、冒頭から超弩級のブラックジョークだった。楽しく観ていたら、映像はたったこれだけで終わってしまった。
講師が言う。
「いまビデオの中でですね、原子力発電が全体の3分の1近く占めるとありましたが、いま停まっている状況が多いので、まぁ、このへんは……ということになっています」
講師もやりにくかったのだろう、最後は口ごもってごまかした。
「では、本題に入りまして、5ページですね」
ウラン235が1グラムで、石油2000リットル、石炭3トンに匹敵するということから、教育が始まる。
〈こんな初歩からやるのか……〉
付け焼き刃とはいえ、あれこれ情報収集をして、その程度の知識はあった。経験者にしか分からないだろうが、全体的に運転免許の講習と雰囲気が似ている。
面白いのはポイントごとに、講師が「ここは試験に出ます!」と教えてくれたことだ。
「原子力発電の燃料……これは核分裂反応による熱で水蒸気を発生させ、タービンを回します。核分裂反応です。ここ大事です。テストに出ます!」
とにかく親切で、テキストもよくできており、わかりやすい。市販すれば売れるだろう。かなりの部数がはけるはずだ。
現実とかけ離れた講義
時間が経つに連れ、私語が目立つようになってきた。遅刻してきた隣の作業員にも4人の仲間がいて、前後に座った同僚に向かい、「おい、飯どうする」とか、「お前、テストに落ちたら恥ずかしいぞ」などささやいていた。時折教育とは無関係の部分で笑い声が聞こえたりする。真剣な顔で、一字一句聞き逃さないよう必死にメモを取っていたのは私だけだ。
不埒な作業員である私にとっては教育と同時に取材なわけで、他の作業員にとっては退屈だったろう。なにしろa・b教育は平時の作業員のために行われている。
「法令ではですね。実効線量限度は5年間で100ミリシーベルト、年間で50ミリシーベルトと定められています」
と説明されても、1Fはその定義に当てはまらない。そのたび、講師も困った顔になっていた。
「まぁですね。第二原発に行かれる方はともかく、第一原発ではご存じのような状態で……」
説明のたび、語尾が尻切れトンボになるが講師を責めるのは酷だ。突っ込まれれば言葉がない。現実とかけ離れた講義は、説明している側の方がつらい。