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チャラい東電講師

 会議室にはすでに100人以上の作業員がいた。もっと多かったかもしれない。a・b教育は特定の曜日にしか開催されず、すべて予約制のため、常に満員なのである。端っこの後ろ側を選んで座った。しっかりメモをとるためだ。

 講師となった東電社員は、茶髪でブランドものの高価なTシャツを着て、金属製の派手なネックレスをしていた。もらった給料をどう使おうと個人の自由である。ただ、これだけの危機的状況のなかでは、完全に浮いていた。もっとも私以外、誰一人としてそれを気にしている様子はなかった。

「おはようございます。東電環境(エンジニアリング)の○○と申します」

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 チャラい外見に似合わず、丁寧かつソフトな語り口だった。

 遅れてきた作業員が私の隣に座り、「それ(テキスト)どっからもってくんの?」と小声でささやく。

「入口の段ボールの中です」

 作業員たちは、たいてい、会社ごと4人~10人のグループになっており、私のように単独だったのは数名だった。

©iStock.com

「今日は11時ころからテストやって……早く終わった人から休憩できます。で、13時半からb教育ですね。これもまた最後にテストがあります。80点以上が合格となりますんで、みなさんがんばってください。あとトイレは向こうの扉(会議室後ろ、演壇から向かって右側)にありまして、タバコ吸う人は2階ですね、テラスに行けば吸えますんで、まぁ、休憩の時にでも行ってください」

 訛りはほとんどなかった。が、福島県内の方言はイントネーションが伝染しやすい。すでに私も訛っていた。講師は幾分私より標準語に近い。

「まずはじめに動画のほう、説明いたします」

 室内が暗くなり、映像が映し出される。

(チャーラッチャチャー)

 軽快なBGMに乗せ、軽快な男性の声で解説が始まる。

「豊かで快適な暮らしを支える電気。日本ではその電気を生み出すエネルギー資源の80パーセント以上を海外から輸入しています。なかでも効率よく発電できる石油は98パーセント以上を輸入に頼っています。しかし、その効率のよい石油も、燃やした時に出る炭酸ガスが地球温暖化などの環境問題を引き起こしています。そこで限りある資源を守るために、また住みよい地球環境を守るためにも、石油に代わるエネルギーが求められています。こうした中で原子力発電は環境負荷が少なく、効率のいい発電方法として、現在では全発電量のおよそ3分の1を担う電力供給の主役となっています。国内の原子力発電所は17カ所。みなさんがいらっしゃる東京電力の発電所はご覧の場所にあります。ではこれから原子力発電所で安全に作業を進めるために必要な放射線防護に対する知識を一緒に学んでいくことにしましょう」