1ページ目から読む
4/5ページ目

映画に出演した「新解さん」

 猫田君は、黙ってじーっとわたしを見ている。あ、ここで話題を変えないと、今後の人間関係に(悪い)影響が生じる、と思いました。

「猫田君、新解さんは映画にも出ているよ。すごく大事な役」

「まじっすか」

ADVERTISEMENT

 はい、それは『赤目四十八瀧心中未遂』荒戸源次郎監督・2003年公開。映画の中では、小道具としてわたしの革装の四版が使われている。新人俳優・大西滝次郎(現・大西信満)が、ある言葉の語釈を読む。

映画出演を果たした「第四版」の現物 ©️文藝春秋

 でも、どうしてわたしの新解さんが画面に出るのか、というと、この監督、わたしの夫だったから。

 3年別居して、また一緒に暮らすことにしたのですが、2014年にごたごたして別れることになり、2年後に元夫は亡くなりました。

 戻ってきた荷物は、ずっと納戸に入れたままで、整理できませんでした。亡くなった人の荷物って、生々しくて触れないです。でも、コロナでリモートになり、時間が出来たので「やらなくちゃ」と思って、段ボール箱を開けました。

 ああ、びっくりした。わたしの革装の新解さんの四版が、夫の荷物から出て来たのです。あれ、最近見かけないな、と思っていましたが、うちには新解さんは何冊もあるので、別に気にしていなかった。見つからなくても、捨ててないからどこかにある、と思っていただけだ。まさか、離婚した夫が自分の荷物と一緒に、持って行っていたとは。えー、なんで妻の大事にしている物を勝手に持って行くの? それ、困る。生きている時からわからない事をする人でしたけれど、死んだ後も、まだわからない事をする。一度生き返ってちゃんと説明して欲しい。

©文藝春秋

 

 今回、新解さんの八版について、こうして原稿を書くに当たり、手になじんだ革装の四版を使えて良かったし、写真もちゃんと撮ってもらえて良かった。大西さんが映画の中で読む語釈だけでなく、新解さんがどんな風に映画で使われているか、ぜひ観て下さい。