電子メールで交流する「メル友」文化もあったけれど、すぐさま返事が来るようなことはなくて、交換できるのはせいぜい1日1通といったところ。だからメールの件名にしても、それなりに考えて付けていたものだ。
それが携帯電話の場合、新着メールがほぼリアルタイムに手元に配信されるようになった。たいへん便利だが、ほんの数分待たせただけで「メールの返事が遅い」と怒られる時代がやってきてしまった。
そのうち、件名はもちろん文面にも、パソコンで書く「電子メール」のような熟慮はなくなっていく。「Re:Re:Re:Re:」だらけのメールが電波に載るようになったのは、件名をつけるほどでもないような短い内容が中心となったためだろう。
83%は「Re:」を消さない
一般社団法人日本ビジネスメール協会の調べによれば、返信の際にメールの件名をそのままにしているユーザーは約83%に及ぶという。ビジネスメールのマナーとしてはよろしくないが、しかし短文で済む用件の場合、メールの件名をどうするかというのは悩ましい。
ガラケーが栄華を極めていた2005年頃の話だが、大学で出会った麻雀仲間にワタナベ君という人がいた。彼は携帯メールを送るとき、件名にかならず「連絡」か「報告」と付ける習慣があった。
カラの件名で送らないあたり、律儀な人柄が透けて見えもしたのだが、しかし何に関する「連絡」「報告」なのかわからないので不便である。ビジネスメールのマナーとしても普通に失格だ。
麻雀仲間の間では、背筋を伸ばして「れんらぁく!」「ほーこぉく!」と叫ぶ「ワタナベ君ごっこ」が流行った。それを見てもなお、彼はメールに変な件名を付ける習慣を変えなかった。ワタナベ君はおそらく、画面に空欄があるのが許せない性分だったのだろう。「Re:Re:Re:」が当たり前だった影で、少数ながらそういう人もいたのである。