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機内食が美味しく感じない理由
読者のなかには、「いくら有名シェフの名を冠しても、機内食は正直おいしくないだろう…」と感じている人も少なからずいるだろう。これは機内食そのもののかかえる構造的な問題に起因している。
多くの乗客に提供され、さらに食中毒が起きたとしてもすぐに地上に降りるわけにはいかない飛行機では、地上よりもはるかに厳しい衛生基準が課される。そのため、機内食工場でつくられ、冷蔵保存されたものを、機内で再加熱することが義務づけられている。ステーキであれば、肉の内部の温度を75度以上になるように過熱し、菌の繁殖を防ぐため、「ブラストチラー」とよばれる急冷庫を使い、4時間以内に4度以下に下げる。このように「万全を期して」火を十分通して調理されたうえ、再加熱した結果、どうしても適切な火入れとは異なる状態になってしまう。
次に機内の環境が過酷だという点だ。機内は約0.8気圧と地上よりも低く、口内が乾燥してしまう。そのため、唾液が減少し、舌にある味蕾の働きがにぶくなり、特に塩味の感覚が約20~30%、甘味が約15~20%低下するとされている。また、機内の湿度は砂漠よりも低い20%以下となっているため、食べ物の匂いを感じづらくなる。さらに、機内は全体的に暗いために食べ物の色合いが食欲を喚起しづらい。くわえて機内の騒音も味覚に影響するという。実際に大音量のBGMを聞きながら食事をすると、塩味や甘味を感じづらくなるという研究結果がある。