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「認知症の老人を放っておくから車が暴走して子どもが死んだりする」 相模原19人殺害の植松聖が勤めた「やまゆり園」の‟実態”

2021/05/29

衝撃を与えた黒岩知事の発言

 ところで、この事件にはもう一つの大きな問題がある。植松の“安楽死思想”がどのように形成され、そのことに津久井やまゆり園の利用者の生活状況や、支援のあり方がどう関わっていたのかという問題だ。

「これまでの方針を見直し、指定管理者を公募で選定する方針に変更することを決断しました」――神奈川県の黒岩祐治知事がそう発言して関係者に衝撃を与えたのは、昨年12月5日の県議会本会議でのことだ。

 もともと津久井やまゆり園は、1964年に県立県営の施設として設立されたが、2005年に指定管理者制度に移行し、「かながわ共同会」という社会福祉法人が、県の指定で運営を行ってきた。従来の県の方針では、2024年度まで同法人が指定管理を務めるはずだったが、知事はこの方針を急遽撤回し、管理者を公募で決めるという重大発表を行ったのである。

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事件当時の「やまゆり園」

 津久井やまゆり園の実情が最初に問題視されるきっかけとなったのは、昨年6月12日にNHK「おはよう日本」で放送された松田智子さんという元利用者についての報道である。

 智子さんは事件後にやまゆり園を退所して横浜市内の施設に移ったが、智子さんの両親が、やまゆり園時代の支援記録を請求したところ、《突発的な行動もあり、“見守りが難しい”》という理由から、車いすに長期間拘束されていたことが明らかになったのである。

 ところが、智子さんが今の施設で拘束を解かれた生活をするうちに、長年の拘束で凝り固まった足腰のリハビリによって歩けるようになったほか、散歩やカフェでの食事、地域の資源回収の仕事までできるようになったという。支援の仕方しだいで、障害の程度は大きく変わりうることが証明される形になったのだ。

さらに、元園長が女児へ強制性交の疑いで逮捕

 さらに、もう一つの激震が襲ったのは10月16日だった。かながわ共同会が、同じく県の指定管理者として運営する「愛名やまゆり園」(神奈川県厚木市)の元園長が、小学6年生の女児への強制性交の疑いで逮捕されたのだ。黒岩知事は「誠に遺憾」とコメントを出し、愛名やまゆり園に特別監査を、津久井やまゆり園にも立入調査を行っていた。

 私もまた、前述の篠田さんとともに月刊誌『創』で、「やまゆり園問題」を考えるための座談会を私が進行役となって昨年8月号から3回にわたり掲載した。