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それでも「形」は誰もが楽しめる……その理由とは

 さて、ここまで「形」の競技的立ち位置について紹介しながら、「形」を見る難しさについて触れてきた。

「やっぱり『形』はよくわからないな……」

 そのように感じた方もいるかもしれない。しかし、空手と共に育ち、空手に育てられた筆者としては、空手の魅力を多くの人に知ってほしい。そこで、最後に「形」の観戦を楽しむポイントを紹介したい。

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 まずは体操種目を観戦する際のように、人体が織りなす美しい動作そのものを楽しんでもらいたい。その際に、一つひとつの動作が美しい「舞踊」を目的としたものではなく、「実戦」、つまり、「技が相手に決まると、相手は立ち上がることができずに絶命状態になる」ことを目的とした動きであることを念頭に置いておくと、競技をより深く楽しめるだろう。何も知らずに見ると、選手が一人で演武をしているように見えるものの、実は四方八方から攻撃されていることを想定しながら構築された動きであり、「形」の演武は見えない敵に対して攻撃・防御を行なっているのだ。

男子「形」に出場する喜友名諒選手 ©getty

 また、空手の「形」を楽しむポイントとして「気迫」が全面に押し出される点もある。

 静寂に包まれた会場の中で「スーパーリンペイ!」「チャンタンヤラクーサンクー!」などと、技名を叫んだうえで、美しく力強い演武が行われる。各々が国の威信をかけ、これまでの鍛錬の成果を気迫満点で表現しているさまは、きっと多くの人の胸を打つだろう。

メダル獲得の確率は……

 今大会で「形」に出場する清水・喜友名両選手は、全日本選手権でも連勝を果たし(2020年の女子形は大野ひかる選手が優勝)、日本の大エースとして金メダル候補の最右翼といえる。一人の選手が大きな大会で連覇を重ねる傾向は空手の「形」に目立つもので、どこかのタイミングで優勝者が替わるまでは一人の選手が勝ち続けるケースが多い(例えば清水・喜友名両選手が活躍する以前は『女子形』で宇佐美里香選手、『男子形』で大木格選手が優勝を重ねていた)。

 採点競技の永遠の課題ともいえるが、先入観が優劣の判断に大きな影響を及ぼすということだろうか。もちろん今回の五輪では採点に透明性が保たれるだろうが、すでに世界的に実力が評価されていることは、もしかするとメダル獲得への追い風となるかもしれない。

「形」「組手」どちらも、今回の東京五輪を制した選手が、世界で初めて「空手」の金メダルを獲得した選手になる。その瞬間を見届けるチャンスは今しかない。