男社会から排除されそうな主人公にしたかった
――いま、「腹立つ」がキーワードになっているように思いますが、作中で主人公はむしろいつも号泣していますよね。号泣している設定はどこから?
佐倉 今の社会で男の人が感情を表現していくのってまだ足りてないなと思うところがあって。
感情を表現するにしても、ここまでなら許されるだろうという規範が、どうしても男性の中にあるんじゃないかなと。自分が男性の主人公を描くなら、そういった規範に沿う人じゃなくて、むしろ男性社会だったら排除されそうな人の方が良いと思ってこうしました。
前に知人にそれを言ったら、「でもそういう主人公、新しくないよ」と言われてしまって、それを言われた時は最初、あっ新しくないのか、じゃあやる意味はないのかな、と少しへこんだんですけれど、その後、でもまだ足りてないからいいじゃんって思って。
依存症、生活保護…バッシングを受ける可能性
――依存症や生活保護といったテーマを扱うことで、バッシングを受ける可能性もあるかと思うのですが、その辺りに関してはどうお考えでしょう。
真並 今読んでくださっている方々は、割とこういった題材に関心がある層なので、テーマに対する反発は受けていないですね。でも、もっといろんな人が手に取ってくれるようになると、そういう声ももしかしたら入ってくるかもしれないと思っています。
佐倉 そんなに簡単に人の考え方を変えられるとは思ってないけれど、1回読んだものって、本人が望んでいなくても、多少は血肉になってしまうじゃないですか。
誰かが、私の本を読んでバッシングをしたとしても、その後、その人が手に取る何十冊のうち、「自己責任論って本当に正しいのかな」という本の割合が増えていったら、その人の考え方の振り切れ具合が、中庸くらいにはなるんじゃないかなって思います。そのたくさんの中の1冊になれたら良いなと。