日本の奥深さは海外に伝わっていない
東京の魅力が伝わっていない以前に、そもそも日本の世界での知名度は、我々が考えるよりずっと低い状態であることを知るべきです。
「何故、世界で日本は最も尊敬されるのか?」
「あの外国人が日本に来たかった理由」
ここ数年、こうした類いのタイトルの番組がお茶の間で流れ、書籍が本屋に並んできました。この現象は、日本の経済力が弱り、世界的にプレゼンスが弱まり、アジア各国が経済成長してきたことで日本人が自信を失いつつあることを逆に示しているように感じます。自信がなくなっているから、自分たちを褒め称(たた)えてくれる誇張されたコンテンツに飛びつく。たとえその自画自賛に大した根拠がなくとも。
現状では、大変残念ではありますが、日本の魅力がある程度きちんと伝わり、日本ファンがある程度の量で存在するのは、距離の近い東アジアか、せいぜい東南アジアまでです。これは前述したインバウンドの出身国を見ても明確です。本当に魅力があり、それが世界中に伝わっているのであれば、その国に行ってみたいと行動を起こす人はもっと増えるはずで、日本全体のインバウンド数が国力に比してこれ程少なく、しかも東アジアだけに偏っていることなどあるはずがありません。
漠然と「どちらかと言えば良いイメージ」の日本
東アジアを離れ、東南アジア各国や欧米やロシアやドバイの若者に対してインタビュー調査をこれまで私が行ってきた中で、サムスンが日本のメーカーだという勘違いや、ヤマハ・カワサキが韓国のメーカーだという勘違いは珍しくありませんでした。インドのデリーでインタビュー調査を行っている時に、現地の調査会社が休日に日本語が堪たん能のうなスタッフを私に紹介して、彼に街を案内させると言うので喜んでいたところ、彼の知っている日本語が「こんにちは」と「おはよう」だけだったこともありました。ドバイのレストランで国籍を聞かれ、日本人だと答えたところ、「ニーハオ」と笑顔で挨拶されたこともありました。ロシアで調査した時など、現地の高校生に韓国のイメージを聞いたところ「原爆を落とされて、すごくかわいそう」と言っていて腰を抜かしたこともあります。
日本は世界中で漠然と「どちらかと言えば良いイメージ」を持たれていることは確かです。しかし、それは日本に対する「無知識」を前提とした緩い肯定的なイメージに過ぎず、それをもって「日本が世界で一番愛されている」などと豪語するタイトルの書籍を見ると、一体どれだけ海外で調査を行い、実態をきちんと把握した上でタイトルづけをしているのか、大いに疑問を持たざるを得ません。
北欧の若者に東京の話をしても、99.9%の子は日本についてほとんど知らない状況でした。正確に言えば「遠すぎて知りようもない」というところでしょうか。知っていても、フジヤマ、ゲイシャ、サクラ、程度。それは日本の普通の若者に、スウェーデンやデンマークやフィンランドについて知っていることを聞いても、「寒い国」「北欧家具」「ムーミン」程度しかおそらく反応がないことと似ていると思います。