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――主人公の石工、匡介は石の声を聞きとる能力がある。

今村 あれ、フィクションじゃないんですよ。「石の声を聞け」というのは師匠が弟子に最初からずっと言い続ける。で、本当にある日突然、石の声が分かるようになるらしいです。これは城郭研究家の千田嘉博先生も言ってました。粟田建設さんの取材に行って「なんでそんなん分かるん?」って訊いたら、「分かるんですよ」って言われたって。木槌でどんなに叩いても割れへん硬い石でも、ここをコンッとやったらボロッと取れると分かるんだそうです。千田先生も「本当に不思議だ」って、めっちゃ興奮してはった。

©文藝春秋

 石垣は外からの衝撃にはめっぽう強いけど、中からは弱いとかっていうのも粟田建設さんに教えてもらいました。「砲を撃ち込んだらどうなります?」といった質問もして、このへんの会話をもとに、最後らへんのシーンを作っていきました。

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 社長さんのおじいさんが最高の石積みやったらしくて、その方が匡介のモデルであり、匡介の師匠の源斎のモデルです。どの石をどこに置くか、小石をビシッビシッと投げて下の者に指示していく場面があるじゃないですか。あそこは漫画っぽいですけど、あれ、本当におじいさんがやってたことなんです。おじいさんは100個の石を持ってきたら、1個も余らずに使ってきれいに石垣を作っていた。この1個も余らないというのが本当に難しいそうです。

造語使いの達人・池波正太郎に憧れて

――戦のさなかに大急ぎで崩れた石垣を修復する「懸(かかり)」の作業の場面も緊張感がありました。

今村 「懸」という言葉は僕の造語です。尊敬する池波正太郎先生が造語使いの達人なので、要所をつかまえる造語をいかに作れるかも作家の腕の見せ所かな、と思っていました。実際、戦国時代に懸のようなことが行われていた記述はあるんです。大坂の陣の際、銃弾が飛び交う中で塀とかの修理をした部隊がいて、それを見た東軍が「見事」と言って褒めた話があったりする。そうしたところから着想を得ました。

――石垣を組み立てるだけでもこんなに方法や技術があり、それが戦術になるというのが非常に面白かったです。

今村 全国津々浦々の変わった石垣は全部調べました。やっぱり物語を紡ぐに当たって、事前にインパクトのある積み方とか、「本当にこんなことできるの?」ということをできる限り集めたくて。僕が勝手に想像して書くだけだと「そんなの無理」と思われそうなので、本当にあるものを全国から集めてきたという感じです。