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下駄 それを見たとある火葬場の管理人さんから、「自分の火葬場では当たり前に喪主にボタンを押してもらっていたけど、止めたほうがいいのでしょうか?」とDMをもらって。それで、YouTubeでそのDMを紹介して、「遺族に選んでもらったらいいんじゃないか」と回答したんです。

――選べたほうが心理的な負担は少なくなりますね。

下駄 そもそもお別れボタンが問題なんじゃなくて、お別れボタンが点火ボタンだと勘違いさせていることが問題だと思うんですよ。だから、遺族にきちんとボタンの意味を説明して、そのうえで押したいか押したくないかを選択していただくのがいいのかなと。

 その後、ご相談いただいた火葬場の管理人さんはボタンを押すかどうかを遺族に聞く運用に変えたそうです。一歩前進した感じで、嬉しかったですね。

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お別れボタンの本当の意味

遺族側も運営側も徐々に違和感に気づくはず

――業界が少しずつ変わってきていると。ただ、日本の火葬場を“公平にする”ためには火葬場自体に関心がない人たちこそ変えていかなければならないとも思いますが……。

下駄 そのとおりです。でも、いまの僕がそういったところに発信しても、まだ影響力がないから無視されるだけなんですよ。

 ただ、これからも地道に活動を続ければ、少しずつ火葬場業界も変わっていくはず。そうすると、遺族の方たちが違和感に気づいて、「この火葬場はいまだにこんなことをやっているのか!」って不満を言いやすくなると思うんです。そうなったとき、運営側も「うちの火葬場も変わらないとまずい」と重い腰が上がるんじゃないかな。

 

 長年閉ざされた業界だったから、変わるのは時間がかかると思います。もしかしたら、僕が死んだあとかもしれない。でも、それでもいいと思っているんです。「昔、下駄ってやつが火葬場業界を変えようとしていたらしい」という事実があれば、それを引き継ぐ人がきっと出てくるはず。

 それを繰り返していけば、いつか日本中の火葬場で“公平な火葬”ができるようになると思います。

写真=石川啓次/文藝春秋

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 (BAMBOO ESSAY SELECTION)

下駄 華緒 ,蓮古田 二郎

竹書房

2021年9月24日 発売

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