対戦相手を“丸裸”にするデータバレー
選手は試合や練習のあと、部屋に戻ると即座にアナリストの渡辺にリクエストを出す。たとえば、その試合の自分だけのサーブが見たい、自分のスパイクでブロックに捕まった部分をチェックしたい、あるいは、相手の何番のスパイクを知りたいなど、どんなリクエストを出しても渡辺から自分のパソコンにデータが瞬時に送られてくるのだ。竹下が言う。
「北京五輪の頃まで、この場面だけの映像が見たいとリクエストを出すと、アナリストがビデオを巻き戻し、シーンを繫ぎ合わせながら編集していたんですけど、今は渡辺さんが選手のリクエストに応えてパソコンをポンと押すと、選手のパソコンにすぐに送られる。だから私たち選手は、より一層バレーに打ち込めるようになった」
アナリストはバレーに関することならすべて解析し、データにする。対戦相手の戦術を丸裸にし、選手個々の癖まで見抜くのは朝飯前。ロンドン五輪で日本は、サーブ決定率はトップだったが、それもアナリストらスタッフ陣の力が大きい。
すべては北京五輪がきっかけだった。解説席に座った眞鍋は、日本がサーブに戸惑っているのを見逃さなかった。北京五輪から国際バレーボール連盟は公式球をミカサに変更。大きな空気抵抗を受けるサーブは、ボールの表面が微妙に変わっただけで軌道が変化する。眞鍋はボールの解析をする必要があると踏んだ。
眞鍋らはメーカーや大学の協力を得て公式球の分析を試みた。すると、それまで「18面」のパネルを組み合わせて作っていたものが「8面」に減り、縫い目が少なくなったせいで軌道が変わってしまうことが分かった。
さらに、このボールの特性は、時速50~70キロでサーブすると、落下するときに最も変化しやすく、しかも無回転で打った場合、予想がつかない揺れが起き変化が大きいことを弾き出した。野球で言うならナックルボールの特性に近い。
それだけではない。ボールは青と黄色の面で縫い合わされているが、相手のコートに落ちるとき、黄色の面がレシーバーの目に入るように打つと、相手を焦らせる心理効果があることが分かった。選手たちが威力あるジャンプサーブから、ジャンプフローターサーブに切り替えたのは、スピードの特性を生かし、黄色い面を相手に向けるための作戦でもあった。