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「僕なんかいつも、すごく流されがちですよ」マキタスポーツが自伝的小説『雌伏三十年』で“ウジウジした主人公”を描いたワケ

マキタスポーツさんインタビュー

2022/05/10
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 マキタスポーツさんといえば、当代切っての「真のマルチタレント」。

 音楽と笑いのエッセンスを併せ持った「オトネタ」で聴衆を感嘆せしめたかと思えば、映画『苦役列車』『忍びの国』などでいぶし銀の名演を披露、さらには『すべてのJ-POPはパクリである』をはじめほうぼうで切れ味鋭い文筆活動も展開する。

 そしてこのたびは、初の小説作品を上梓した。『雌伏三十年』と題された長編は、山梨から上京した臼井圭次郎が仲間とバンドを結成するも、仕事面でもプライベートでも課題難題が山積、果たして未来を見出せるのか? という青春一代記だ。

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「芸人・ミュージシャン・文筆家・俳優」という、ただでさえ長い肩書きに、いまなぜ新たに「小説家」も加えることとなったのか?

 

◆ ◆ ◆

「ずいぶんこじらせたヤツのお話です」

「こいつらと、自分は違う。」

いつからだろう。思えば、子どもの頃から周りと自分とは違うと思っていた。

(『雌伏三十年』)

 初の小説作品は、1980年代以降に青春を送ったひとりの男性の境遇や心境が、赤裸々に描き出されていて魅力的。これは多分にご自分のことが投影されている?

「もちろんたっぷりと投影してありますよ。主人公の圭次郎って、まあ理屈っぽくていろいろこじらせたヤツなんです。つべこべ言わずにさっさとやりたいようにすればいいのに、能書きばかり垂れていて。そのあたりはまさに僕の性質そのもの。実際に体験したエピソードを盛り込んだ云々という以前に、自分の考え方のクセとか嫌なところをさらけ出してしまいました。

 ふだんの自分は照れ屋で小心、自分をそのまま出すなんてあまりしないけれど、そういうヤツにかぎって急にやたら大胆になったりすることがある。この小説はそういう妙な揺り戻しの勢いで書いてしまったものですね」

 

 そんな主人公の性向ゆえか、作中に出てくるエピソードのスケールは、あまり大きくない……。

「そうなんです、なにしろ主人公がウジウジ考えてばかりだから、波乱に満ちた人生や起伏に富んだストーリーがジェットコースターに乗っているごとく展開されるわけじゃない。ただただ自分の内側で考えをこじらせて、行動に出ようとしてはすぐにつまずくお話です。

 みなさんの貴重な人生のお時間をいただいて、そんなジュクジュクしたものをお見せするというのはなんとも心苦しいかぎり。なんとかおもしろく読んでいただけるよう、文章や表現には僕なりに心を砕いたつもりではありますが」

 自伝的小説であるのなら、もっと派手な武勇伝っぽくもできそうだけど、そのような展開にはなっていない。