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社会は何を目指してプラスチックごみの削減に取り組むのか

 大切なのは、その社会が何を目指してプラスチックごみの削減に取り組むのかをはっきりさせ、それを市民にわかるように提示することだ。ごみ全体を減らすことなのか、地球環境の悪化を防ぐことなのか、海洋生物を守ることなのか。それによって戦略と戦術が違ってくる。

 このとき、ライフサイクルアセスメントのような研究結果を基礎に置くことは有用だが、その結論どおりに政策を決める必要はない。「科学的にはこうだが、この社会としては別の道をとる」という選択もあるだろう。

 そのとき欠かせないのは、決定に至る過程と理由をリアルタイムで公表することだ。たとえば、「紙ストローは環境には悪いが、プラスチックごみの削減を社会に呼びかけるために、あえてわが社は紙ストローに切り替える」のように。「総合的、俯瞰的な観点から」では、なにも説明していないに等しい。民主主義社会を支える一人ひとりの市民が、その決定に対して意見をもてるような説明が必要なのだ。

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 新型コロナウイルス関連の政策決定にしても、日本学術会議会員の任命拒否問題にしても、そしてプラストローを紙ストローに替える企業にしても、いまこの社会は「根拠を説明して是非を問う」というマインドに乏しい。イメージアップや責任逃れが、こうした説明より先に頭に浮かぶのだろう。

 プラスチックごみをはじめとする環境問題は、とかく個人の主義を押し通したり、根拠にもとづかない情緒的な決定になったりしがちだ。せっかくこういう科学研究の成果がでているのだから、それを社会の意思決定に役立てないのはもったいない。

 地球温暖化問題には、そのための国際的なしくみができている。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という政府間組織が1988年に設立され、ここで科学的知見を集約して定期的に公表する。それをもとに、世界の各国が対策をたてる。これがあるから国際協力もできる。

 プラスチックごみ問題でいっきにIPCCのような組織をつくるのは難しいだろうが、せめてそのマインドだけでも日本の政府や各自治体、企業が取り入れれば、紙ストローを口にしたりごみを捨てたりする際に覚える市民のモヤモヤ感は軽減されるのではないだろうか。