しかし今年に入り、各国が脱コロナに舵を切るなかで、厳しすぎるゼロコロナ政策と実際のコロナ(オミクロン株)のリスクとの乖離が目立ちはじめた。ロックダウン下で子どもや高齢者が死亡したり、絶望した住民が自殺する事例も増えたほか、経済への影響も深刻になった。だが、ゼロコロナ政策は習近平の肝煎りであり、習に権力が極度に集中する現体制のもとでは、政策の方針転換は望み薄だ。
理不尽な火災による死亡
国民の不満が静かに高まるなか、10月の中国共産党第20回党大会で、習近平政権の第3期目突入と、習派で一色の常務委員人事が発表される。大会の直前、北京市内の四通橋である男性がゼロコロナ政策と習近平の独裁に反対する横断幕を掲げると、このスローガンは中国国内外で一定の広がりを見せ、日本でも大学のキャンパス内などで中国人留学生による反習近平ポスターが登場することになった(当時の記事参照)。
そして11月24日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで火災が起き、すくなくとも10人が死亡する。現地は100日以上にわたってロックダウン下にあり、ゆえに消火活動が充分におこなわれなかったとみられた。現場ではゼロコロナ政策のもと、マンションの扉が外から施錠されていたとする報道もあり、炎に巻かれた建物内で、「助けて! お願いだから開けて!」と叫ぶ女性の音声が入った動画も流出した。
結果、25日からはゼロコロナ政策への反対やウルムチ火災の犠牲者の追悼を理由に、中国各地で住民が街頭に出て抗議したり、大学内で学生が抗議集会を開く現象が発生する。
なかでも26日夜に上海市内で発生した街頭抗議では「共産党下台!(中国共産党は政権を手放せ!)」「習近平下台!(習近平は辞めちまえ!)」というスローガンを群衆が叫ぶという、数ヶ月前までは絶対にあり得なかった事態が発生した。また、習近平の母校である清華大学でも、1000人以上の規模の抗議集会が起きた──。
イベントの4時間前に代表者が決定
さて、話を新宿西口に戻す。今回、私がウルムチ火災犠牲者の追悼集会の実施を知ったのは、当日27日の午後になってからだった。イベントの開始時刻は19時だったが、その前に用事があり、私が現場に到着したのは20時過ぎ。そこで冒頭の光景を目にしたのである。どうやら最初は静かに追悼する目的だったようだが、盛り上がってしまい即席の演説会とシュプレヒコールが始まったようだ。