就職先で「在職トランス」の壁にぶち当たる
――性別適合手術もダイレーションも保険適用外の自費診療になると思いますが、ダイレーションにはどのくらいの費用がかかるんですか?
西原 それは毎月3000円もかからないくらいですね。ちなみに性別適合手術を受けると、ホルモン投薬治療が保険適用になるんです。なので、もともと手術前は週に1回2000円から2500円かかっていたものが、今は週に1回、550円くらいです。
――性別適合手術を受けられる前は、ホルモン投薬治療だけで月に1万円、年間12万円くらいかかっていたそうですね。学生の頃などは、アルバイトをして費用を捻出されていたのでしょうか。
西原 そうです。割烹料理屋さんでホールスタッフをしていました。
――大学を卒業されてからは、就職先で困難に直面することはありましたか?
西原 実は先ほどお話しした広告代理店の前に、アパレルメーカーに就職したんです。その会社で、通称名を名乗ることや名札を変更させてもらえないかなどを相談したんですが「うちでは難しい」と断られてしまって。在職している途中で性別移行を行うことを「在職トランス」というのですが、そこで壁にぶち当たる方は多いです。
私の場合はそれで転職活動をして、たまたま人が足りていなかったという背景もあり、ウェブ系の広告代理店に営業として採用されました。本当は内勤のデザイナーをやりたかったんですが、営業職が足りないということで。
トランスジェンダーに理解のある会社が当時は少なかった
――広告代理店では、性別移行のお話はされたのですか?
西原 はい、しました。その会社にいたのはもう13年ほど前なのですが、まだ当時の社会的背景を考えると理解がある会社というか、私の申し出に色々と配慮をしてくださって。
まだ戸籍の名前が変わる前のタイミングだったのですが、同じフロアで働く社員の方々に、会社側が事情を説明して通称名を名乗る許可をいただいたり、名刺を女性の名前で新しく作り直してくれたり。
また、女性社員の方の了承を得て、女性用トイレを使わせてもらえたりもしました。あとは、健康診断の際に男性と一緒になるのではなく、女性として配慮してくださったりだとか。
――当時、そういった理解のある会社は少なかったように感じますか?
西原 少なかったと思います。職場で差別的な扱いを受けたり、アウティング(暴露)をされたという人の話も聞きますし、そもそも就職活動の段階で「前例がない」ことを理由に受け入れてもらえなかったり。今は昔よりも理解が進んでいるとは言っても、それは都市部や東京23区内だけなのかな、とも思います。
――生活する地域によって、価値観が固定してしまって、変化しにくい場合もあるかもしれませんね。個人的な話になりますが、私自身、働いていた職場などで個人の性指向や性のあり方について、偏見を持っている人を見たこともあります。
西原 そういった偏見や無関心さを背景として、実は「トランスジェンダーの貧困」というのが深刻な問題としてあるんですよ。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
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