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遠山 将棋界は、世の中よりはるかに男性社会ですからね。そのなかで戦ってきた里見さんならではのことばとして私も印象に残っています。

――さて、何にしましょうか。

遠山 「エグい」が名言と言うのは、どうですかね。

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――でも今年を象徴しているような。

深浦 そうなんですよね。1年間を象徴していることばといえば、これかもしれません。エグい対象が藤井さんだから、今年らしいですよね。

――では今年の名言賞は、渡辺明名人の「感想戦がエグい」に決まりました。

「おう、やるか? 表へ出ろ!」姿が目に浮かぶような情景描写

――続いては、「ベスト棋譜コメ賞」です。「将棋連盟ライブ中継」で日々中継される対局に添えられた中継記者による棋譜コメントで、印象に残っているものを投票してもらいました。まずは、こちら。

 2023年2月1日 A級順位戦8回戦 佐藤康光九段-豊島将之九段(150手目)

〈天王山に桂を跳躍。主役は彼だった〉

 豊島九段が大劣勢をひっくり返しての棋譜コメ。そのまま桂馬が乱舞するような詰み筋で大変かっこよかったです。

(30代・女性)

――潤記者の棋譜コメですね。次は、銀杏記者の棋譜コメです。

 2023年3月16日 叡王戦挑戦者決定戦 永瀬拓矢王座-菅井竜也八段(96手目)

〈角取り放置で勝負に出た。そして、菅井は盤面に目を向けたままネクタイを外して、放るようにして後ろに置いた〉

 菅井先生が勝負手を放った後の、気迫あふれる様子が目に浮かびました。「おう、やるか? 表へ出ろ!」って、指し手と仕草で言っているようです。

(50代・女性)

――姿が目に浮かぶようなコメントですね。

遠山 こういった情景描写いいですね。菅井さんらしくていいです。

動と静の対比が素晴らしい

――次も銀杏記者です。

 2022年9月5日 A級順位戦3回戦 佐藤康光九段-斎藤慎太郎八段(57手目)

〈それにしても、50手目△2七桂の局面は3七歩・2九桂だったのに、あっという間に桂が大舞台へ。平社員が一気に重役に昇進だ〉

 桂跳ねを平社員の出世に例えた比喩が秀逸。局面の急所を端的に表していて、観る将にもわかりやすい。

(40代・女性)

――次は紋蛇記者の棋譜コメです。

 2022年8月25日 王位戦予選 神谷広志八段-中田宏樹八段(96手目)

〈神谷の動きが激しくなってきた。前かがみのまま手元で扇子を何度も開閉していたかと思えば、のけぞって両手を頭に当て、がりがりとかく。そして再び盤をにらむ。のけぞる、にらむ、のけぞる、にらむ……。「チャンスじゃないのか。何かあるだろう」といういら立ちが聞こえてきそうだ。中田はあぐらで腕組みをし、静かに待っている〉

 対局室の様子が目に浮かびます。動と静の対比、心理描写が素晴らしかったです。

(30代・女性)

――中田宏樹九段が今年の2月にお亡くなりになったこともあり、中田九段を偲ぶ関連のコメントがいくつかありましたが、これもそのひとつですね。対局した神谷八段の描写もその状況が目に浮かぶようです。そして、その中田九段を知る上での集大成ともいえるのが、こちら牛蒡記者の名局探訪でしょうか。