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 コロナ渦で棋譜中継の記者が現地にいないことも

 1991年7月11日 第32期王位戦七番勝負第2局 谷川浩司王位-中田宏樹五段

 中継ではないため対象外になってしまうかもしれませんが、涙を流すほどでしたので、この一局を推薦します。特定の手数を挙げることもできません。まず牛蒡記者の非常に熱心に収集した情報に感動しました。この七番勝負の様子、谷川王位と中田五段の関係、当時の将棋界の様子がよく伝わりました。飯島八段の解説にも感動しました。ご自身の経験を交えていることで、盤外の人間がこの将棋をどのように見ていたのか良く分かりましたし、中田五段の人となりも伝わってきました。そして、何よりこの将棋に感動しました。棋譜コメントと解説によって、中田宏樹五段の名局が名局として際立って伝わりました。素晴らしい内容でした。

(30代・男性)

深浦 この王位戦の将棋は自分も知っていましたが、このモバイルで読むと思い起こされますし、中田宏樹さんが素晴らしい棋士だったということもよくわかる素晴らしい文章でした。

――遠山先生は、中田先生についてはいかがですか。

遠山 対局で教わったことが何度かあります。それほどお付き合いがあるほうではなかったですが、将棋は随分と勉強しました。角換わりの新手を指されたりしたことが印象に残っていますね。今回棋譜コメで、神谷-中田戦がありましたが、あれは決め手がありそうなんだけどわからないという状況。それを神谷八段が、もがいて考えている様を書いているんですね。

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――なるほど。

遠山 コロナになってから棋譜中継の記者が現地にいないことがあるんです。仕方ないことなんですが、対局者の様子を書いたものが減っている。でも、こういったものがファンの方の目に留まって、評価されていることは大事なことだと思いました。手の解説だけじゃなく、情景描写って大切ですよね。

かつて将棋連盟モバイルの編集長を務めていた遠山雄亮六段 ©文藝春秋

個人的には神谷八段の動きを表現したのがいい

深浦 たしかに。これから復活していくといいですね。菅井さんも、中川さんもどんどん脱いでいくからね。

遠山 そういうのがいいですよね。

――では、どれを選びましょうか。

深浦 中田さんにあげたい気持ちですね。

――とても厚みがある記事ですね。

遠山 棋譜コメ賞って特定のコメントにあげていたので、一局まるごとの記事よりは、個人的には神谷八段の動きを表現したのがいいですね。《中田はあぐらで腕組みをし、静かに待っている》というのも、中田九段のことを知っている人からすると、いかにもという感じなんです。

深浦 中田さんに勝ちたい神谷さんの気持ちが伝わってきますよね。

――では、遠山先生の推薦もあり、今年のベスト棋譜コメ賞は神谷-中田戦を書いた紋蛇記者に差し上げたいと思います!

 受賞の言葉(紋蛇記者):

「投票いただいた読者の方々、また審査員を務めた深浦康市九段と遠山雄亮六段、選考に携わった関係者の皆様に御礼申し上げます。

 本局は同世代のベテラン対決で、中田宏樹九段(当時は八段)が積極的にさばいたものの、神谷広志八段が粘り強い指し回しでチャンスをつかみました。対局室の変化が盤上の流れと重なり、人間同士の勝負の醍醐味が表れたように思います。

 私にとっては、中田九段と最後にお会いした日になりました。取材や仕事の雑談で様々なことを朗らかに教えていただいたのを思い出します。その一部は、今年2月14日に中継した伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦▲佐々木大地七段-△岡部怜央四段戦の15~22手目に記しました。平成初期、中田九段は角換わり腰掛け銀同型を升田時代から復活させる新手を指して、森内俊之五段を破っています。新手のきっかけがたまたま研究会の打ち上げに誘われたからと聞いたときは、本当に驚きました。盤上の物語は理詰めだけでなく、様々な偶然が積み重なって紡がれるものなのでしょう。

 引き続き、棋譜中継をお楽しみいただければ幸いです。最後に中田九段のご冥福を心からお祈り申し上げます」

ABEMAの将棋中継で観るファンが増加

――最後は、今年の新設の「ベストサポーター賞」。将棋界を支えてくださっている企業や自治体を表彰しようという賞ですね。ランキングはこのようになりました。