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 困難が大きいほど、克服したときの喜びもまた大きい。さあ、喜び勇んで倒しにいくぞという精神性に、侍ジャパンの選手たちは貫かれていました。

日常の生きざまが導きになる

 人生はいいことばかりではありません。大変な時間、苦しい時間をどう受け止めて、どう立ち向かっていくのか。侍ジャパンがWBCで見せた戦いは、彼らの生きかたそのものでした。だからこそ、多くの人たちの心を動かすことができたのでしょう。

 私自身は、難しい決断の連続でした。最適解を探し当てたつもりでも、すべての決断にはプラスとマイナスの要素が共存しています。見えている事実の表層だけで判断すると、チームの利益を損ねてしまったり、デメリットを生じさせたりしてしまうことがあります。

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 複数の選択肢のなかで、どれを選ぶのか。突き詰めて考えると、日常の生きざまが導きになると思えてなりません。私たちが幼少期に祖父母や両親から教えられた、人としての道標――正直に生きなさい。?をついてはいけない。人に迷惑をかけてはいけない。感謝の気持ちを忘れずに過ごしなさい。ゴミが落ちていたら拾いなさい。そういった小さな営みを、自分の生活に丁寧に織り込んでいく。それによって、自分が目ざすべき方向へ、自然と導かれていくと感じるのです。

 優勝後のシャンパンファイトや記者会見までがすべて終了したところで、翔平が監督室に入ってきました。

「監督、写真撮りましょうよ」

 彼がファイターズを離れるときも同じでした。2人で写真を撮りました。

 私たちは多くを語り合う関係ではありません。けれど、心が通じ合っているという感覚は、おそらく共有できています。言葉が行き来しなくても、胸にはほんのりとした温もりが広がるのです。

 彼はきっと、「最高の時間でした!」と思っているに違いない。そして私は、「こういう戦いがしたかったんだな」と感じました。

 

これからも選手たちは「新しい何か」を求めて自分を磨いていく

 写真を撮り終えると、私は翔平に言いました。

「今回がオレの最後のユニフォームだから、それに関しては本当に感謝している。ありがとうな」

 翔平は少し驚いたような表情を浮かべて、いたずらっぽい笑みをこぼしました。

 えっ、何言っちゃってるんですか? 3年後もやればいいじゃないですか――そんなことを言ってくれましたが、私は笑みを返すだけにとどめました。

 翔平をはじめとする侍ジャパンの選手たちは、これからも「新しい何か」を求めて自分を磨いていく。それはとても険しい道のりなのでしょうが、大好きな野球に精いっぱい打ち込めることが、とても羨ましく、眩しく感じられました。

 翔平に返事をしない代わりに、私は心のなかでエールをおくりました。

 翔平、誰も歩いたことのない君の旅が、また明日からはじまる。

 自分自身との勝負は、まだまだ続く。

 これからだよ!