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 男の為政者に引き立てられて位を極め、さらには男社会を敵に見立てて、階段を上っていった。女性初の総理候補者として、何度も名を取り上げられている。

 ここまで権力を求め、権力を手にした女は、過去にいない。なぜ、彼女にだけ、それが可能だったのか。

 おそらく彼女には、人を惹きつける何かがあるのだろう。権力者に好かれ、大衆に慕われる何かが。

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 選挙での言葉は力強く、熱を帯び、人々を興奮させる。芝居がかった所作や過剰な表現。ひどく饒舌で耳触りの良い演説。「敵」を作り出して戦う姿勢を見せながら、他者から共感を引き出していく手法。

忘れられない「ひとつの嘘」

 2016年夏の選挙をめぐる狂騒を、私は主にテレビを通じて見ていたが、未だに記憶に残り忘れられない場面がある。彼女が対抗馬の鳥越俊太郎を街頭演説で、「病み上がりの人」と言ったのだ。それは明らかな失言であるとされ、何度かテレビでも流された。だが、私が忘れられずにいるのは、その後の彼女の振る舞いである。

 テレビ番組の討論会で顔を合わせると、鳥越は彼女に激しく食ってかかった。

「私のことを『病み上がりの人』と言いましたねっ」

 彼女はどう詫び、どう切り抜けるつもりなのか。私はそれを知りたいと思い、次の瞬間を見逃すまいとした。

 彼女はおもむろに口を開いた。だが、それは私の、まったく想像し得ない答えだった。

©文藝春秋

「いいえ、言ってませんねえ」

 テレビを通じて、おそらくは何十万、何百万の人が「病み上がりの人」と彼女が口にするのを見ていたはずである。それでも、「言ってない」という。

「言ってないって、証拠だって」

 鳥越のほうが取り乱し、声が裏返ってしまっていた。

 私はこの短いやり取りが、選挙後も長く忘れられなかった。

小池百合子に感じた「違和感」

 私が書き手として、平成の代表者である彼女に向き合うことになったきっかけは、月刊誌からの原稿執筆の依頼だった。都知事選が終わり、騒がしい夏が去ろうという頃のことだ。

 私はそれを引き受けて、いつもと変わらぬ手順で執筆しようと試みた。資料を集めて読み込むことからすべては始まる。彼女は政治家の中でも群を抜いて自著の多い人である。受けたインタビューや対談の類も膨大な量にのぼり、読むべき資料には事欠かなかった。