沢山働けばいいわけじゃない、インパクトが重要
――華麗なる大転身ですね。働き方の文化として、マイクロソフトに入って何が一番違いましたか?
牛尾 何から何まで違いました。まず衝撃を受けたのは、僕が連日夜遅くまで働いていたら、僕のサポート役をしてくれていたアメリカ人のドリューに、「ツヨシ、働きすぎなくていいよ。怠惰であれ!」(Tsuyoshi, Don't work too hard. Be lazy.)と声をかけられんです。日本の会社にいる時は「もっと働けよ」としか言われなかったのに、残業してたら「もっとさぼれよ」ってどういうこと? 最初はひどく驚きました。
でも彼は冗談でもなんでもなく、その後も頻繁に「Be lazy.」と口にする。しばらくしてその意味が段々わかってきたんです。インターナショナルチームでの評価は「インパクト」が重要視されていて、「沢山働けばいいわけじゃない。インパクトが重要なんだ」という。つまり、「より少ない時間で価値を最大化する仕事をする」というマインドセット(思考法)が深く共有されている。
例を挙げると、上司のダミアンは、僕がお客さんからの沢山の要望になんとか応えようとパツパツになっていた時期に、「ツヨシ、いま一番やるべき重要な仕事は何だ?」と尋ねる。「そうですね。ハッカソン(ITエンジニアなどが集まって期間内でアプリやサービスを開発して成果を競い合うイベント)ですね」と答えたら、「俺もそう思う。じゃあ今日からそれだけをやろう。他のことは一切やらなくていいよ!」と。
一流エンジニアたちが言う「Be lazy.」の意味
――仕事は1本に絞っていいと上司が言うんですか!
牛尾 そうなんです。日本だったら良い上司でも「自分も手伝うから一緒に頑張ろう」と言いそうな場面です。で、実際他の仕事を一切やめたら、結果どうなったか?
一番大事なイベントだけに集中できたので、いろんな工夫ができて、参加したお客さんたちからものすごく喜ばれて、高いスコアが叩き出せた。ハッカソンで圧倒的な評価を得て、おかげで僕は昇進もしました。これが「インパクトを生む仕事」なのかと腹落ちしました。
仕事の場面でよく「優先順位をつけよう」と言われますよね。日本人の僕らはそんな時、抱えたタスクに順位をつけて、優先順位の高いものからやることをイメージします。順番に全部をこなそうと、なかなか物量主義のマインドから抜け出せない。
ところがアメリカ人が考える優先順位って、10個くらいタスクがあったら、一番重要な仕事を見極めて、その一つだけをやるイメージです。まだ誰もやってない本当に重要な仕事って実は少ない。「Be lazy.」の精神って「インパクトのあるものだけに注力しよう」という意味なんですね。