1989年秋の台湾。父と二人、いつか自分たちの店を持ちたいと願う11歳の少年の思いは、世の中の価値観が大きく変わりゆく時代のなかで否応なく翻弄される。違う時代と国を舞台にした作品に参加した門脇麦さんが、監督と共に、撮影をふりかえる。

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何より惹かれた門脇麦の眼差し

――まずは、本作への門脇さんの起用の経緯を教えてください。

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シャオ 台湾の俳優で役にぴったりな人を見つけられずにいたときに、日本の役者を候補に入れてみたら、とプロデューサーから提案されたんです。

 そして門脇さんが出演された『浅草キッド』(21年)を観て、ぜひ出演してほしいとお願いしました。何より惹かれたのは彼女の眼差しです。目で演技のできる、素晴らしい眼差しを持った人だなと感じました。

左から門脇麦、シャオ・ヤーチュエン監督 ©鈴木七絵/文藝春秋
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――門脇さんが演じるヤンジュンメイは台湾で生まれ育った女性ですよね。台湾映画で台湾の女性の役を演じるのは難しい仕事だったのでは?

門脇 中国語を習い、自分が生まれる前の時代の人を演じるのは難しかったですが、根本にある大事なエッセンスをしっかりつかむ、ということを大切にしました。

 実は今までも、天才バイオリニストや戦国時代の女性などリアルには想像できないような役は演じてきていますし。今回は、それが80年代末期の台湾で生きる女性だっただけ、ということだったのだと思います。

言葉に束縛されない演技ができた

――映画では声は吹替だそうですが、口の動きを合わせるために、門脇さんは中国語をかなり勉強されたそうですね。

門脇 演じるときは、逆に言葉にばかり気持ちが行きすぎないように気をつけて、彼女の寂しさや孤独を表現することに集中していました。そのせいか、映画の中の自分を見てもまったく違和感を覚えませんでした。

シャオ 台湾の観客で、「彼女は台湾の俳優じゃないでしょ?」と言う人はほぼいませんでしたよ。彼女があの役を自分のものにできたのは、言葉に束縛されずに演技ができたことが大きかったと思う。