ピアノで身についた舞台度胸「演奏が悪いと先生の舌打ちが…」
――それでも、ピアノをやってきたことが無駄だったとは言い切れないのでは。
きり 無駄ではないですね。やっぱり舞台度胸は、そのおかげで付いていると思いますし。
――モスクワ音楽院では、大きなホールでテストなどを。
きり そうです。ガラガラのホールの2階席1列目に、先生たちがズラッと揃って。ガラガラだから、先生たちの存在が際立つんですよ。で、演奏が悪いと、先生の舌打ちが聞こえて怖いんですよ。それがまたガラガラだから響いて。
――たしかに、舞台度胸は付きそうですね。それに比べたら、お笑いのほうがまだ気が楽ですか。
きり いや、もっと怖いですよ。ピアノは基本的に弾き終わるまで反応はわからないですけど、お笑いは一発目のボケでウケなかったとか、瞬間的に反応が返ってくるので、その場で心が折れていくという。キツいことは、お笑いのほうが多いですね。
あと、ピアノは「このぐらい弾ければ、このぐらいの反応が返ってくるだろうな」っていう予想がだいたいできるんです。でも、お笑いはその場のお客さんによって反応がまったく違ったりするので。お笑いの方が予想が立てられなくて、自信のあるネタでも毎回怖いです。
「本当はコンビを組みたかったんです」
――コントがやりたくて、コントに強い人力舎に入りたかったとのことですが、ライブなどではどういったものを。
きり 不条理ものとか、SFコントを。
――SFコント。
きり SFや安部公房が好きなので。
――お笑いでの今後の目標は。
きり ピン芸人なので、R-1グランプリで頑張りたいですね。
――他人との距離感などをめぐる話を聞くと、ピン芸人が理想ですか。
きり 本当はコンビを組みたかったんです。やっぱりキングオブコメディさんに憧れているので。でも、組めなかったんです。
コンビを試みたことはありますし、養成所に入った最初の頃に組んでいたんですけど、どうも楽しくできなかったのでピンになりました。なんか無理なんです。きっと、性格が悪いんでしょうね。
――ロシア育ちとか、楽しくないのにピアノをやってきたとか、そのあたりが関係していると考えたりは。
きり そのあたりが、私自身でもよくわからなくて。どこで生まれても、どこで育っても、自分はこういう人間なんだろうなって気がします。
写真=橋本篤/文藝春秋

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