たしかに高齢の身内が車で長距離移動を繰り返しているとあれば、本人がいかに経験豊富なドライバーであれ、心配する気持ちも出てくるものだろう。ただ難しいのは、本人の運転能力について、客観的に判断する材料が乏しいことだ。
加齢による認知機能の衰えは避けられないが、一方でその程度には個人差がある。年齢だけを基準に、返納を考えることには疑問符がつく。
警察庁の統計を見ると、「65歳以上は年齢が上がるにつれて事故率が高くなる」という傾向が認められる一方で、「65歳以上よりも30歳未満の方が事故を起こす確率が高い」ことも明確に読み取れる。
過去数年のデータを見ても、10代後半から20代前半は85歳以上よりも事故率が高く、さらに20代後半に入ってもなお、70代後半よりも高い水準となっている。
このように、高齢ドライバーを一律に危険視することはできない以上、「一定の年齢に達したら強制的に免許失効」といった策は現実的ではない。
免許返納後の生活に潜むリスク
免許返納を考えるうえで難しいのは、「車がなくなった後の生活環境」をめぐる問題だけではない。「国立長寿医療研究センター 予防老年学研究部」の調査によれば、運転を中止した高齢者は、運転を継続している高齢者と比べ、要介護状態になるリスクが約8倍、認知症になるリスクが約1.6倍になることが明らかになったという。
もちろん、このなかには「そもそも心身の衰えが理由で運転を中止した」という人も含まれているだろうから、その後の健康状態に差が出るのも無理のない話ではある。
とはいえ免許返納後に活動範囲が狭まることで、生活の意欲が減退したり、身体的な活動量が減少したりといった影響は少なからず出てくるだろう。