運転能力を客観的に評価するには
ただ、高齢者の生きがいや生活の利便性は当然重んじられるべきものだが、そのために周囲の安全が脅かされるのであれば、やはり話は変わってくる。
車の運転はつねに他者の命を奪う可能性のある行為であり、だからこそ免許という「資格」が要求される。ハンドルを握りつづけるかぎり、「自分の運転は本当に大丈夫だろうか」と省みる視点を失ってはいけない。
何より重要なのは、当人の状態を客観的に把握する機会を定期的につくることだ。免許更新に際しての高齢者講習以外にも、ネットなどで個人的に簡単な診断を受けられる場は多い。たとえばJAFのホームページでは、認知機能検査と同形式のテストや、状況把握などに関する簡易的な診断テストを受けられる。
「おそらくまだ大丈夫そうだが、いつまで運転できるか不安」というのであれば、任意保険会社が提供しているドラレコ付きプランなども有効かもしれない。
これは「事故の衝撃があったときに自動でサポート窓口に連絡がつながり、映像も共有される」ことを趣旨とするプランだが、それ以外にも日常における急な加減速やふらつきなど、危険な運転に対して随時アラートを発し、また定期的に運転の安全性について評価・レポートしてくれる。
アプリ上で家族がレポートを確認したり、ルート上で危うい操作があったポイントをチェックしたり、その映像を確認したりできるプランもある。つねにドラレコが車両の動きを観測しているので、客観的に「最近変な操作が増えたな」といったことがわかるのである。
少しずつ返納に向けたステップを
運転免許の返納は、すぐに答えを出せるようなものではなく、家族や周囲と段階を踏んで話し合っていかなければならない問題である。前置きなく「免許を返納してほしい」と伝えられれば、本人にとっては「死ぬまで引きこもっていろ」というのと同じように聞こえるかもしれない。
いずれは返納することになるにしても、それは本当に今なのか。返納後の生活に、見通しは立っているのか。買い物や通院といった現実的な生活基盤はもちろん、生きがいや趣味、所属できるコミュニティなど、本人にとって大切な価値や尊厳が奪われないか。
また一方で、そうした大切な価値のあり方について、「他者を傷つけるリスク」とともに考えていく必要があるだろう。そもそも本人の認識能力はどの程度衰え、運転にどのような危険性が生じているのか。こうした点を整理するうえでも、まずは現状の運転能力を客観的に評価し、把握していくことが重要だ。
