「僕は笑いにはマンネリは絶対に必要だと思う。お客さんにすれば、『多分こうするよ。ほらやった』と自分も一緒になって喜ぶ笑いと、『意表を突かれた。そう来たか』とびっくりする笑いの2種類あると思う。全部意表を突かれてしまうと、お客さんも見ていて疲れてしまうだろう」(『変なおじさん【完全版】』新潮文庫)
マンネリになるまでやるというのは、実はすごいことなのだ。酔っ払いにしても、お婆ちゃんにしても、バカ殿にしても、スケベな中年男性にしても、「こういう人っているよなあ」と思わせる演技。だからこそ、世代を超えて多くの人に、志村は愛されたのだろう。
「ストレス発散がすごく下手なタイプ」
でも、本人は大変だったに違いない。「気分転換、ストレス発散がすごく下手なタイプ」と、あるインタビューで自嘲気味に語っていたが、枕元にはネタをメモするためのノートが置いてあり、夢に出てきたコントやギャグをすぐ書き残したという。そして、連日の深酒が体を蝕んだ。六本木のクラブでも接客についた女性を冗談や物まねで楽しませた。
笑いの天才でもあったが、どこか孤独を抱えていた。社会の片隅に吹き寄せられながら肩をすぼめて生きている人たちの悲しみや苦しさもよく理解していたコメディアンだった。
それにしても、新型コロナウイルスという奴は人の心をも蝕む病気だ。志村にコロナをうつしたと、ネットで「感染源」とのデマを流された女性もいる。この女性は名誉を毀損されたとして、投稿した男女26人に計約3300万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。「デタラメな内容で人を傷つければ責任を問われると知ってほしい」と訴えた。大阪地裁は投稿者のうち2名に対し、それぞれ12万円の賠償を命じる判決を出した。
コロナ禍での不安や恐怖が、人々をさらなる不安や恐怖に追い詰める。志村の死は、先行き不透明な現代社会の実相を照らし出したとも言える。

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