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別れ話は密室でしないほうがいい理由

島本理生×星野概念#2「カウンセリングは裁判に似ている」

note

相談にのったら解決するまでつきあわないと

星野 プライベートの相談の難しさの1つは、1度相談に乗ったら、その問題が本人の中で解決するまで付き合う義務が生じることです。妹の愚痴を聞くことはできましたが、他の人に同じことができるかどうか……。僕がはじめは親身になって話を聞いてたとしても、途中で興味を失ってしまったら相手はメチャメチャ傷つくと思います。

島本 それは、たしかにそうですね。

星野 だからカウンセリングとか診察として時間の枠が決まっているのはとてもいいことなんです。30分なり1時間の時間内であれば、絶対に自分の話を聞いてもらえる環境を患者さん(クライアント)に提供できる。安心して自分の話をできることって日常ではあまりないから、カウンセリングや診察の場って大切だと思うんです。

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島本 親しい人に相談すると「そんな人からすぐ離れたほうがいい」と言われたりする。頭ではわかっていても、気持ちがそのアドバイスについていかないと、自分が親しい人の言葉に従えなかったというもう1つの罪悪感を背負うことになって余計に苦しくなる。だからアドバイスは別に聞いても聞かなくてもいいけど、お金を介してちゃんと自分の話を聞いてくれる人がいるのはありがたいですね。

星野概念さん ©末永裕樹/文藝春秋

アルコール依存症の患者がお酒を飲んじゃったら

星野 しかも我々の役割は、患者さんの心理を分析したり何か答えを与えることは違います。辛そうだから、話を聞いて何か力になれることがあったら一緒に考えましょう、みたいな立場。だから、診察室では相手のことを否定したりはしないんですよ。例えばアルコール依存症を治療中の患者さんが、我慢できずにお酒を飲んでしまったときでさえ、「駄目じゃないか」とは言いません。「飲んじゃってどんな気持ちでした?」みたいに聞く。いろんな先生がいるので一概には言えませんが、僕はそういうやり方をしています。

島本 どんな関係性にせよ、他人の気持ちを変えるのは非常に難しいことですよね。時間はかかるけれど、自分の心は自分で整理するしかないのかなと。

星野 そうなんです。こちらが「こうした方がいいですよ」と答えを用意してしまうと治療になりませんから。ジャッジするというより、感想を述べながらずっと話を続けていくという形を大事にしたいなと。