文春オンライン
「週刊新潮」の「食べてはいけない『国産食品』」は本当に食べてはいけないのか?

「週刊新潮」の「食べてはいけない『国産食品』」は本当に食べてはいけないのか?

note

農水省HPを見ると……

「相乗毒性」はエビデンスがないようだが、亜硝酸Na単体のリスクについても、記事では、農水省のHPを引用して、こう記している。

〈発ガン性物質であるニトロソ化合物の生成に関与するおそれがある〉

 だが、実は、農水省HPを見ると、こう続く。

ADVERTISEMENT

〈しかし、生体内における硝酸塩から亜硝酸塩への転換のメカニズムは複雑です。(中略、国連食糧農業機関と世界保健機関が合同で運営している食品添加物専門家会合は)硝酸塩の摂取と発がんリスクとの間に関連があるという証拠にはならないと言っています〉

 前出の食品安全委の食品健康影響評価書と同じ構図だ。同委の添加物専門調査会の専門委員を務める伊藤裕才共立女子大教授が言う。

「亜硝酸塩はある条件下で発ガン性物質を作ります。しかし、添加物として摂取した亜硝酸塩から発ガン性物質が生成して人の健康に影響を与えているという科学的知見はありません」

 NPO「食の安全と安心を科学する会」の山崎毅代表は、「硝酸塩は生の野菜に普通に含まれる」と言う。

「新潮の言うように、食品に添加されるわずかな量の亜硝酸塩を恐れるのであれば、野菜に含まれる硝酸塩も恐れなければいけないということでしょうか」

ハムなら1日51枚摂取しなければ上限量に達しない

 続いて、〈過剰に摂取すると成人病や腎臓疾患を引き起こすという研究結果が出ている〉と新潮の記事で警鐘が鳴らされているリン酸塩はどうか。

 リンは、人体に必須のミネラルである。厚労省では成人男性で1日1000mg、女性で800mgの摂取目安を定めている。一方、「過剰摂取によって健康への悪影響が否定できない量」である耐容上限量は1日3000mgとされている。前出の山崎氏が語る。

「『国民健康・栄養調査』のデータから換算すると、小さなソーセージを1日で67本食べるとようやく耐容上限に達することになります」

 同様に、上の表に記したように、一般的なハムなら1日51枚、マルハニチロの「ソースとんかつ」なら、なんと88個摂取しなければ上限量に達しない。

 ソルビン酸の場合はどうか。新潮によれば〈特定のヒト集団に過敏性反応、特に接触性蕁麻疹を起こすとの報告〉があるという。生涯にわたり毎日摂取し続けても健康に影響が出ないという1日摂取許容量(ADI)が定められており、体重50㎏の成人の場合、1.25gだ。記事で「食べてはいけない」と名指しされた丸大食品の「うす塩デリシャスハム」で計算してみよう。同商品は、1枚当たり約0.01gのソルビン酸が含まれている。

 つまり、仮に1日120枚食べたとしてもADIには達しないということだ。

 

 もちろん、ハムなどの加工肉は、WHO(世界保健機関)から発ガン性リスクが指摘されており、食べすぎは健康を損なう怖れがある。だが、問われるべきは「量」なのだ。現実的な食生活であれば、上限値に達しそうにない添加物を過剰に恐れる必要はなさそうだ。

 添加物を過剰に避けようとすると、別の危険性も生じてくると、前出の伊藤教授は指摘する。

「最も気にするべきは食中毒です。細菌の増殖は大変早いため、もしO157のような食中毒菌が混入した場合は人命に関わる事件となります。ソルビン酸などの保存料は、食中毒菌の増殖を抑制するために添加されているのです」

 新潮にコメントを寄せた前出の野本氏は、この3つの添加物を含む食品だけを取り出して、「食べてはいけない」と紹介したことについて、こう首を傾げる。

「それぞれリスクが全く異なるので、一緒くたにすることはできません。リン酸塩はほとんど毒性がありませんし、どうしてなんだろうと思いますね。事実をたくさん書いてくれていますから、新潮の記事が悪いとは言いません。ただキャッチーな点を強調したかったのでしょう。そういう意味では不安を煽っているところはありますね」