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フランス各紙は「ゴーンさん事件」をどう報じたのか?

2018/12/08
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フランスの工場からは「気分良くないね」の声

 大衆紙である地方紙は地元の工場での声を拾っている。非組合員の声を聞いてみよう。

「パリジャン」はフラン工場。

《「詐欺師」「泥棒」。従業員の口から出た言葉は厳しいものだった。「ペテン師はいつもペテン師だ」と2400人の従業員の一人は言う》

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 ブルターニュ地方の「ウエスト・フランス」はルマン工場。

《「気分良くないね。我々に20分長く、無償で働くことを頼んだ。そしてやった」。ローランも同じ気持ちで「2%賃上げを要求するとお金がないという! 彼はお金をポケットに入れたんだ」》

 もっとも一方では《ショックを与えるかもしれないが、私はこれは良い経営者だと思う。彼は会社を建て直した》(「パリジャン」)。《優秀な経営者だ。ルノーにはほんとに腐った連中がいるよ。彼はそうではなかった》(「ウエスト・フランス」)という声もある。

©iStock.com

 11月8日にマクロン大統領がゴーンさんと一緒に訪問したモーブージュ工場で、マクロン大統領が演説していると「あなたは歓迎されていない」と遮った27年間勤務のSUD労働組合員サミュエル・ボーヴェ氏を「ヴォワ・デュ・ノール」紙が取材している。《お金はお金を呼ぶ。ここ数年間に、ゴーンの行っていることを告発してきた。新しいことではない。長い間我々は裏切られたと感じていた》。

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 ゴーンさんがなぜ評価されていたかといえば、雇用を創出したからだ。ところが、ゴーンさんが行ったのは日産(そして今日では三菱も)の製品をつくることによって、ルノーの工場に雇用をもたらすことだった。ルマン工場は日産・ルノー共通のシャーシ作り専門、フラン工場の半分はMicra(マーチ)の生産ラインだし、モーブージュ工場の200人増員も日産車生産ラインのためだ。もはや日産なしにはやっていけない。これが、フランス政府が連合の現状維持にこだわる最大の(おそらく唯一の)理由だ。折しもフォードのボルドー工場の閉鎖で900人の雇用が風前の灯になっている。

※特記がない限り、記事の引用は全て11月20日付(「ルモンド」の発売日は20日だが日付は21日)。

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