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仏紙の対立軸は「左右」ではなく「上下」

 いまや、従来の「左右」にかわって、グローバリゼーションを享受するエリートと一向に恩恵のない民衆の「上下」が社会の対立軸になっている。凱旋門が煙と催涙弾でもうもうとなった黄色いベスト運動もまさに格差への民衆の不満が「上」の現政権に対してぶつけられているものだ。

 三大紙はいずれも「上」のエリート層の読者が中心だが、「リベラシオン」は「下」のシンパ、「ルモンド」もどちらかといえば同じ。「レゼコー」はもちろん「上」、「パリジャン」は大衆紙である。

 しかし、ゴーンさん事件の報道では各紙ともあまり差はなかった。

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「レゼコー」がゴーンさんのポートレートを題して《規格外の経営者、日産の救世主》としているが、これに他紙も集約されるといっていい。

「レゼコー」(11月20日)

《ロシアではプーチンがラーダの再建を頼み、アメリカではオバマ大統領がGMやフォードの面倒を見るよう懇願した。(中略)1万キロ離れた2つの多国籍企業、10のブランド、47万人の従業員、そして200カ国122の工場のグループを監督する世界で唯一の経営者である》(「パリジャン」)

《ショック療法は成功した。そして日産のルネッサンスはゴーンに国家的英雄の地位を与え、漫画の主人公にもなった》(「ルフィガロ」)

 漫画は「ビッグコミックスペリオール」の「カルロス・ゴーン物語」のことだが、各紙で触れられている。まあ、やっぱり今の日本は「manga」なのだろう。

「ルモンド」や「レゼコー」は、別途電子版で記事も出している。「レゼコー」はスーパー・ヒーローのお約束満載だという。そして彼がヒーローになった背景を、《「外人」であったことも重要な役割を果たしたのだろう》と分析している。

©getty

 日産のV字回復はいいが、ルノーの最大株主であるフランスとゴーンさんとの関係はいつもギクシャクしていた。《国はゴーンが自らに権力を集中しすぎ、後継者を準備していないと批判する。対してゴーンは、国も単なる株主なのに経営に口出ししようとしていると批判した》(「レゼコー」)。

「レゼコー」はさらに社説でも批判する。《彼(ゴーン氏)は、次のステップを効果的に準備できなかった理由として、しばしば矛盾した要求をしたフランスや消極的抵抗をする日本の資本主義のせいだと言うだろう。しかし、つまるところ、経営者の責任は最悪の場合に備えることではないか》。そして、最も重要な優先事項であるルノー・日産連合の進化には、《あまりにも多くの時間が失われた》。