1943年の北海道・有珠山噴火によって誕生した昭和新山。その隆起を克明に記録し、世界的な評価を受けたのが、地元の郵便局局長で、アマチュア火山学者の三松(みまつ)正夫(1888〜1977)だ。その事業を受け継いだ三松三朗氏が解説する。
私は二代目と称しているが、正夫とは血の繋がりはない。正夫の孫娘と結婚し、三松家に婿入りした。
1955年春、獣医学を学ぶために渡道した私は昭和新山に立ち寄った。そこで、正夫が存命と知り、興味半分で連絡をとって3日間自宅に泊めて頂いた。正夫は、あらゆる絵図面を引っ張り出し、昭和新山の成り立ちを詳細に語ってくれた。今から考えると、戦争で息子を失った正夫は、若い私に「後継者」として期待する気持ちがあったように思う。しかしそれを口にせず、ひたすら火山を語る正夫の心に惹かれ、婿入りすることになった。
1968年、離れて暮らしていた私たち夫婦は正夫を助けるために、正夫の住む壮瞥(そうべつ)に戻った。名実ともに三松二代目の生活である。そこで初めて、世間一般の常識とかけ離れた正夫の地球観を深く理解出来るようになった。地球科学の門外漢で、学歴もない正夫が、今も研究者から評価される昭和新山誕生の全記録を何故どのようにして残し得たのかという疑問の答えもやがて得られた。

1910年、22歳の正夫が郵便局員見習いとして父の経営する壮瞥特定郵便局を手伝っていた頃、突如有珠山麓で噴火が始まった。東京帝国大学の大森房吉教授などの専門家が駆け付け、調査が行われた。
ちょうどその当時、噴火による住民全滅という悲劇が国内外で相次いで起こっていた。そこで、火山研究者たちは噴火予知手法の構築を模索していたのである。
正夫は一帯の道案内を頼まれ、専門家たちによる調査研究を見守った。その過程で、正夫は、噴火とはその火山の癖を知る千載一遇の機会であること、人間は地球にしか生存できず、その星では地震・噴火は不可欠な自然現象であり、人間は謙虚に身を守るべきことを悟った。
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