1964(昭和39)年の東京五輪女子バレーボールで金メダルを獲得した「東洋の魔女」。このチームは大松博文(だいまつひろふみ)監督(1921―1978)が日紡貝塚で鍛え上げたメンバーが中心だった。「鬼の大松」の真実を、「東洋の魔女」たちが語る。
彼女たちは大松監督を「先生」と呼ぶ。主将を務めた河西(現姓・中村)昌枝さん(79)が出会いを振り返る。
「私が日紡足利工場に就職したとき、先生は貝塚工場に勤務する社員でした。毎週土曜に足利まで来て、私たちの練習をみて、日曜の夜行列車で貝塚に帰っていた。その後、バレーの選手は貝塚に集められていったのです。
先生は精悍で恰好よかった。洋服は松坂屋で仕立て、身長175センチくらいと結構高かったのに、底上げの踵の高い靴をはいて、もっと高くみせていました。読書家で、通勤のときなど吉川英治とか山手樹一郎の単行本を読み、海外遠征にも必ず10冊以上持っていきましたね」

後に「世界一のアタッカー」と呼ばれた宮本(寺山)恵美子さん(75)は、長い補欠暮らしを経験した。
「和歌山商業高校に在学中、先生にスカウトされたのですが『日紡へ来ないか』と誘っておいて、ボール拾いばっかり。それも2年も続きました。先生は何も言わない。何考えてんの、この人、と思いましたよ。そのうち、谷(田)が入ってきて、この子も最初はボール拾いからやろな、と思うてたら、いきなりレギュラーですもん。もう辞めたろと思いましたわ」
入社間もなくレギュラーとなった谷田(井戸川)絹子さん(73)だったが、
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source : 文藝春秋 2013年1月号

