いまや世界一の味に 奇跡の人の奇跡の米

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生産量の不足から続く令和の米騒動のなか、“希望の星”ともいえる米があることをご存じだろうか。大学の教授が偶然見つけたひと株から生まれた品種が、いま、全国各地で作られ始めている。

 

偶然、見つけた稲に誰もが惹きつけられた

 「専門外だったから20年以上も携わっていられたのかもしれません」と、宇都宮大学の前田忠信名誉教授は微笑んだ。前田氏はもともと循環型持続的農業の発展を目指し、作業の効率化や省力化の研究を専門としていた。ところが1990年、同大の農学部附属農場(下の写真)を歩いていたところ、ひと株だけ10センチ以上背の高い稲穂を見つけた。「とにかく大きくて、これまでの日本の在来種と異なっていました。米の品種改良は私の研究テーマではなかったけれど、何かあると感じたんです」。当初は学術的に発表する考えはなかったが、見つけた株を増殖させてみた。ところが品質にばらつきが多かったため、改良を重ねていったという。

「ゆうだい21」の水田に立つ、前田忠信氏(右)と森島規仁氏

 その過程で、前田氏のもとで大学院の学生だった森島規仁氏もこの品種、ゆうだい21に魅了された1人だ。「研究室でお米を食べ比べて、味が断然違った。大粒で、噛むほどに口の中で甘みが増し、食べ応えがある。炊きあがるときは芳ばしい香りが広がる。このお米の可能性に惹きつけられました」。

 こうしてゆうだい21は2010年、国立大学初の米として品種登録され、10年後にお米の日本一コンテストで金賞を受賞した。国内最大級の品評会でも最高賞を受賞し、その品質から確固たる地位を築いている。酷暑が続く今、暑さに強いのも利点だ。21世紀の主役品種として期待されるなか、宇都宮大学は森島氏とともに、生産者と連携した普及活動を全国で展開する。

前田忠信

宇都宮大学名誉教授

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source : 文藝春秋 2025年10月号

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