暗くならずに読めるのはなぜ？

　82歳の父はローリング・ストーンズのミック・ジャガー、私はといえばその招聘元で、来日大物アーティストのわがままだと割り切って、ビジネスライクに対応するしかない。

　本物の父は生活力ゼロの82歳の独居老人、本物の私はその一人娘で、「悲観的現実主義者の氷河期世代」。父とは別に暮らしながらも、老いゆく父を支えるしかない。やれるところまでやる。「罪状不明ながら、罪滅ぼしの意識もあった」。

『介護未満の父に起きたこと』は、コラムニストの著者による5年間に及び、まだまだ終わりそうもない老父との闘いの記録である。ニヤニヤ笑って読みながら、役に立つ実用的なアイディアが詰まったエッセイ集でもある。

「人はいきなり寝たきりになるわけではない。そういう人もいるかもしれないが、たいていは誰もがイメージする『ザ・介護』の前段階がある。（略）まだ元気だが、どうしても自分だけでは生活が回らない。そういう事態に我が家も陥った」

　家事能力皆無、肉体も精神もまだ元気で、要介護認定は難しい。協調性に乏しく、ヘルパーさんとぶつかるのは必至。綺麗好きではあるのだが、父の部屋に踏み込んでみると、唖然となる。ものが溢れ、汚部屋一歩手前と化している。

「ゴミとそうでないものが、モザイク状に生息している。ご丁寧に、そのすべてにタオルが掛けられており、父曰くほこり除（よ）けのためらしいが、それはまるでご遺体の顔に掛けられた布のようで、リビング全体がぎゅうぎゅうの霊安室のようだった」

　大量の「いま、ここになくてよいもの」を小部屋へとせっせと移す娘に、父は「すまないね」と言うだけで、テレビに見入っている。父がペットにしている文鳥が娘の汗だくの肩に留まった。

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