最近の日韓関係は混沌としている。一方の言い分を他方は全く理解できないという変則状況だ。日清戦争の下関条約により独立するまで、李氏朝鮮は大中華(中国)に対する小中華と自称し、属国中の筆頭であることを誇り、周辺諸国に対し居丈高に振舞っていた。身分の上下を何より尊ぶ朱子学を国教としていたから、これは当然のことであった。中国は敬うべき師、日本は中華文明の外にいる夷狄(蛮族)であり見下すべきものだった。明治27年に訪朝したイザベラ・バードは『朝鮮紀行』の中で、支那商人のひどい不正に対し黙っている朝鮮人が、日本商人のちょっとした不始末に激昂するのを見て、「朝鮮人は日本人が大嫌い」と記している。
だからこそ5世紀余りも李氏朝鮮を隷属国とし、1950年の朝鮮戦争では北鮮軍と組んで百数十万人の韓国人を殺した中国を怨まず、35年間だけ属国とした日本を怨む。目下が目上を支配するなどというのは倫理上言語道断だからだ。THAAD(高高度迎撃用ミサイル)配備に対する中国の執拗な報復で、ロッテグループは中国からの撤退を強いられ、現代自動車の中国工場が閉鎖に追いこまれ、中国人観光客の訪韓規制がなされても文句一つ言わない。他方、輸出管理上韓国を他のアジア諸国と同等に扱うとしただけで日本に逆上する。中国の制裁は目上だから仕方ないが、日本の制裁は目上への敬意に欠けたとんでもない行為なのだ。そして何より、35年間蛮族に支配されたという拭い難い屈辱は、「極悪非道の日本」を唱え続けない限り癒されないのである。
小学生の頃、我が家は隣家と格別に親しくしていた。満州にいた頃からお世話になった和達清夫中央気象台長の紹介で引越してきたからだ。隣家のおばあさんと和達夫人が姉妹だった。幼い頃から珍奇なことを言い大言壮語を発していた私を老夫婦は面白いと思ったのか、私をとりわけ可愛がってくれた。ある日おばあさんに「ヒコちゃん将来何になりたいの」と言われた。「天才科学者になって絶対に死なない薬を発見するんだ」と力んだら、「急いでね、私に間に合わなかったら困るから」と言われた。桜の季節になると決まって「ヒコちゃん行こうか」と花見に誘われた。中学生になってからも毎年2人で井の頭公園へ花見に行った。花見の時のおばあさんはいつも和服の正装だった。
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source : 文藝春秋 2019年10月号